王子と家族


「あ、ベル……」

任務を終わらせ自室に戻るとチャーラが包帯だらけの身体で出迎えてくれた。今さら自虐行為を咎めたりしない。日常茶飯事すぎて突っ込む気力もねーし。

「おかえりなさい……生きててよかった…」
「なにそれ。お前オレが死ぬと思ってんの?」

意地悪のつもりで言えばチャーラは肩を落として小さくなってしまう。相変わらず冗談通じねーな。

「ごめん……」

消え入りそうな声で謝るチャーラに背筋がぞくぞくと震える。
なんでこいつこんなかわいいの。
いや昔からずーっと可愛かったけど、結婚してからもっと可愛くなった。
いい妻になろうって必死なわけ?オレのために必死になってるわけ?

ああ、こいつのこと好きになって正解だわ。
今めっちゃ幸せ。

「別にいーよ。キレてねーし」

天パの頭をがしがしと撫でると、チャーラは嬉しそうに微笑む。
なにその反則技な笑顔。こっちの頬まで緩むだろ。

我慢できねぇって。
王子も健全な男だっつの。

「チャーラ」
「な、なに…?」
「抱きたい」

オレの言葉にチャーラはびくりと肩を震わせ首を振った。
今日はダメか…。

「今日……骨折っちゃったから……」

よく見るとチャーラの左腕はだらーんとしている。三角布も使わずに。痛くねーからって相変わらず適当な処置だな…。

昔のオレなら無理矢理犯してただろーけど(実際一回やっちゃったし)、今はもう夫婦だ。お互いの身体を案じるのが普通だろう。お互いもうそいつだけの身体じゃないってこと。

「あっそ。ならいーや」

オレは伸びを一つし風呂場に足を向ける。
するとチャーラに掴まった。ちらりと引かれる部分を確認してみる。動く右手で服の裾を掴んでいるらしい。

「なに?」

と振り向けば、チャーラは慌てた様子で手を離し、下を向いてしまう。こういうとこは直してくんねーかな。なんか罪悪感すげーから。

「チャーラ、オレ怒ってねーから言ってみな」
「……」

うつむく彼女に出来るだけ優しい声をかけると、ゆっくりその顔が持ち上がる。泣きそうな目をしていた。痛め付けてもなかないくせに、こういう時には泣くんだよ。

「ごめん……ね……。私が、止められないから…ベル、わたし……」

辿々しく謝られても困るんだけど。まあ、オレも鬼じゃねーし。つーかさっきも言ったけど怒ってねーから。

「いーよ。慣れてるから」
「うん……」
「早く直して、綺麗な身体、見せろよ」

ししし と笑えば、チャーラは涙を拭って微笑んだ。

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