「祝え」
「嘘だ」

朝一番からそれはなんなんだ。しかもすごいドヤ顔なんだけど。いやまあ、音羽先輩らしいけど。

「祝え」
「あーはいはい。誕生日おめでとうございます、音羽先輩」
「……」

今度はジト目で見つめられた。
整った顔にときめかないわけではないけれど、流石に今はときめかない。というか慣れた。

「プレゼントだ」
「え…?」
「プレゼント」
「プレゼント……ですか?」

やばい。何もない。何ももってない
私が音羽先輩から視線をそらすと、彼の口角が上がるのが視界の端に見えた。

「なら貰おう」
「え、な、何をですか、音羽先輩」
「名前」
「え、え?」
「名前で呼べ」
「なんでいきなり」
「口ごたえができる立場か?」
「う…」

なんでそんなに嬉しそうに笑うんだ。それに、逆らえないこと分かって言ってるんだ、この人。

「さ、悟偉先輩…」
「ああ」
「こ、これがプレゼントでいいんですか?」
「誰がこれだけだと言った」

ああ、やっぱり。分かってたけれど、これだけじゃ終わらないんだ。

「おい」
「今度はなんですか」
「来い」
「え」
「プレゼントだろ」
「う……」

音羽……悟偉先輩は両手を広げて私を待っている。何でこうなったんだろう。
恐る恐る近づけば悟偉先輩に思いきり抱き締められた。

「い、痛い痛いですよ先輩!」
「我慢しろ」
「うー……」

悟偉先輩の腕は強く強く私を抱き締めて痛いぐらいだ。それを主張してもやめてはくれないだろうけれど。
何でこんなことになってるのかよく分からないけれど、まあ、これがプレゼントになるのならば、甘んじて受け入れましょう。別に嫌ってわけでもないしな。

「音羽先輩…」
「悟偉」
「はあ……悟偉先輩。いつまでこうしてるつもりですか」
「満足するまでだな」
「なにそれ許されない」
「プレゼントを持ってきていないやつが何を言う」
「はい、反論できませーん」
「だろうな」

悟偉先輩は満足そうに笑みをこぼし、また私を抱き締めた。まあ、こういうのも悪くないか。悟偉先輩、大好きだから。

「って、うわぁああ!!!お、おお音羽先輩と名字!?」

「え?」
「ああ、神峰か」

そうだ、ここ、音楽室だった。誰もいなかったからって普通に悟偉先輩に引っ付いていたけれど、部活前だった。

「違う、違うの神峰!私たちはっ」
「そういうことだ、神峰」
「やっぱりそういう関係なんですね音羽先輩と名字はぁああ失礼しましたっ!!!」
「神峰!?」

神峰は慌てたように音楽室を飛び出してしまった。

ああ、これ、どうにもならないやつだ。
それにしても楽しそうな悟偉先輩がちらついて仕方ない。