部屋の扉を開けてくれた雨竜は、私の顔を見た途端素早く扉を閉じようとしてしまう。

「ストップストップ雨竜さん!?」

私は慌ててその扉に足を挟む。危ない危ない。逃げられるところだった。
雨竜ってば、いつもは礼儀正しいいい子なのに、幼馴染みの私には態度が悪いから。学校で声をかけると他人のふりするし。
お陰でクラスの子には「石田くんに片想いしてるんだね」って言われてしまった。意味がわからないんだけど。

「なぜ来たんだ……名前」
「入れてくれたら教えてあげる」
「じゃあ遠慮しておくよ」
「ちょっ、雨竜っ……」

雨竜は扉に挟んだ私の足を押しだし、扉を完全に閉めてしまう。あ、今鍵を閉める音がした。

いつからこんな私を嫌がるようになったんだっけ。昔はむしろ、雨竜の方が私にベッタリだったのに。

「雨竜〜。雨竜が大好きな鯖の味噌煮あるよ〜」

ドンドンと扉を叩く。んー。これで開けてくれないとなると、なかなか悩むな…。

「開けてくれないとここでバースデーソング歌っちゃうよー?」
「それだけはやめてくれっ!」

あ、開いた。
雨竜は切羽詰まったような顔で扉を開けてくれた。そんなに私の歌が嫌か。開けてくれたことを喜ぶべきなのに、なんか複雑だ。

「はぁ………入ればいいよ」
「わーい。お邪魔しまーす」

雨竜は相当嫌々みたいだけど、私には関係ない。なんだかんだで久しぶりに部屋の中まで入る。いつも玄関先までしか入れてくれないし。やっぱり何もない部屋だな。まあ、雨竜が貧乏だから仕方ないんだけど。

「で、何の用?場合によっては追い出すつもりだけど」
「ひどいよ雨竜!せっかく幼馴染みが誕生日をお祝いしにきたのに!」
「誕生日?」
「うん、さっきも言ったじゃん。バースデーソングって」
「誕生日……って、ああ、11月6日、僕の誕生日か」
「え!?」

まさかまさか、雨竜ってば自分の誕生日を忘れてたの!?もしかして去年の誕生日にプレゼントあげたら不思議そうな顔をしたのも忘れてたから!?

「あり得ない……」
「うるさいな。あんまり意識してないんだよ」
「それにしてもあり得ない」

気合いをいれてケーキや鯖の味噌煮を作ってきた私が馬鹿みたいじゃないか。いや、そっちより自分の誕生日すら覚えていない雨竜がかわいそうで。

「あれ?でも雨竜、私の誕生日にはプレゼントくれたよね?」
「ん?それだどうしたんだ?」
「自分の誕生日は覚えてないのに、私の誕生日は覚えてくれてたんだ」

私がそう言うと雨竜はこちらを睨み付けてきた。でもどことなく赤いような。というかそんな顔されたら私も無駄にドキドキしちゃうんだけど、本当にわけわかんないよ。