「さーよーこちゃん♪」
「消えろ」
「ひっでぇ!」

がばりと砂夜子ちゃんに抱き着くとぎろりと睨まれた。砂夜子ちゃん眼力あるなー。

「そんなつれないこと言わずにー。ほーら、一緒に帰ろ?」
「いや…私はこれから用がある」

砂夜子ちゃんはそう言うと俺の腕からするりと逃れてしまった。ほんと、猫みたいにしなやかだよな。

「用ってなに?」

砂夜子ちゃんが放課後に用があるなんてはじめてだから、思わず聞いてしまった。すると砂夜子ちゃんはポケットから何かを取り出してこちらに突きつけてくる。

「これだ」
「手紙?」

砂夜子ちゃんが持っていたのは手紙。
つーかこれ、ラブレターじゃね?

「これに放課後、体育館裏に来いと書いてあるのだ」
「うわお」
「これは果たし状に違いない!」
「………」

砂夜子ちゃんはキラキラした瞳でラブレターを見つめている。

なーんか、面白くないんだよなー。
砂夜子ちゃんが嬉しそうにしてんだから、普通は俺も嬉しいと思うはずなのに、なんでこんなにムカつくんだろう。
モヤモヤするっつーか、なんつーか。

あー、これ、あれだ。
嫉妬っつーやつだ。

あーあ、はじめてだな、この感覚。

「あのさ、砂夜子ちゃん」
「さぁ、果たし状の相手を探しにいこうか!」
「おーい、さーよーこーちゃーん」
「どんな相手だろうか!果たし状というものが私に届くなんて…夢のようだな!!」
「………砂夜子ちゃん」
「あー!早くいかなければ!」
「砂夜子!」

気付くと俺は砂夜子ちゃんを下足箱に追い詰めていた。ガシャンと嫌な音がする。

俺の視界に驚いた様子の砂夜子ちゃんが収まる。

ああ、罪悪感。
なにやってんだろう、俺。
これじゃ、ただの恥ずかしいやつじゃん。

「遊斗?どうしたんだ?顔色が悪いぞ…?」

砂夜子ちゃんの指が頬に触れる。冷たい指だ。
俺は思わず砂夜子ちゃんに顔を寄せた。
唇が触れそうな距離で砂夜子ちゃんが俺の名を紡いだ。

「……!!!」

はっとした。
俺、今、何をしようとしたんだ?
砂夜子ちゃんが呼んでくれなかったら、今、絶対、俺、砂夜子ちゃんに、今、今。

頭の中がぐちゃぐちゃになって、よく考えられない。

「ごめん…砂夜子ちゃん」
「分かった」

俺が砂夜子ちゃんから離れると、彼女は相変わらずの真顔で頷いた。
何が分かったのだろうと首を傾げると、砂夜子ちゃんはにこりと微笑む。

「今日は一緒に帰ろう」
「え?果たし、状は?」
「いい。遊斗は一緒に帰りたいのだろう?」
「え、あ、いや、うん、まあ、そうなんだけど…」
「なら、私は遊斗と帰ることを選ぶ。果たし状をくれた相手には悪いがな」

ほら、行くぞ。と砂夜子ちゃんは俺の手を引いて歩き出した。
なんでこう、いつもいつも彼女の方がかっこよくなるんだろーって思うけど、まあ、今すごく楽しいからいいや。

「おう、帰ろう」



遊斗×砂夜子