夜久衛輔

「衛輔、誕生日おめでとー」
「んー、ありがとう」

夏休み。
部活の朝練に向かう通学路で、私は衛輔に出会った。
こうやって出会うことは珍しくない。
別にバラバラに向かう必要もないし、方向は同じだから隣になって歩く。

太陽が昇りきらない朝は、昼と比べると涼しささえ感じる。
それでも暑いのだけれど。

そんな真夏の8月8日。
今日、衛輔は誕生日を向かえた。

衛輔の頬や額をじんわりと汗が伝う。
シャツの襟首を掴み、パタパタと空気を送り込み始めた。

「暑いね…」
「うん、暑い…」
「うー…………あ、そうだ!」

ひらめいた。
私が声を上げれば、衛輔はどうした?と首を傾げた。

「衛輔の誕生日プレゼントにアイス買ってあげる!」
「名前のことだからどうせガリガリ君だろ?」
「ハーゲンダッツ!」
「それでも300円以下!小学生の遠足かよ!」
「ケチー」

私がムッと頬を膨らませると、衛輔は はいはい と苦笑した。

なんか余裕!?
同級生なのに、衛輔の方が大人っぽく見えるのは、彼が今日ひとつ年をとったからだろうか。
ああ、でも、去年もこんな感じだったっけ。
なら、何も変わってないや。

去年はこんなやり取りをした後、何を言ったっんだっけ?
えーと。確か……。

「衛輔は今年も全然伸びなかったね」

これだ!

衛輔はあからさまに眉根を寄せ、こちらを睨んでくる。
小学生の時から衛輔を見てるけど、中二で確実に成長が止まっている。

「俺はリベロだからいいの」
「165cmだもんね」
「なんで把握済み!? 身体測定は男女別だよな!?」
「クロ情報」
「あいつ……」

衛輔は頭を抱え、がくりと肩を落とした。
衛輔の身長はクロが簡単に教えてくれました。

「ちなみにね、私今年の身体測定163cmだったよ」
「去年、160って言ってなかった!? まだ成長期!?」

実は中二の時は150ぐらいしかなかったんだけど、衛輔の成長が止まってから伸びだしたのだ。
私が衛輔の成長を奪っているのではないかと思うほど。

「とにかく!俺はリベロだから!」
「あ、駄菓子屋〜」
「聞けよ!」

背中に衛輔の小言を聞きながら私は駄菓子屋に走る。
外に出ている冷凍庫の中には色々なアイスが並んでいた。

「衛輔ハーゲンダッツねー」
「あーもう!それでいいよ!」
「私はガリガリ君ー」

私は二つのアイスを抱え、駄菓子屋のおばさんの元に向かった。
会計をすませ、外に出ると衛輔が待っていてくれた。

「happybirthday衛輔!」
「はい、どうも」

衛輔は私からアイスを受け取り、微笑んだ。