渡瀬青葉
クーラーの効いた青葉の部屋で漫画を読んでいると、この部屋の主が帰ってきた。
「あ、青葉おかえりー」
青葉は扉を開けたまま固まり、突っ立っている。 私がクーラーを指差せば、彼ははっとした顔付きになって後ろ手で扉を閉めた。
「なんでいるんだよ」
青葉は鞄を床に下ろし、ベッドに腰掛けた。 毎日と言ってもいいほど青葉は外でバスケをしているのに、その肌は全然焼けてない。 日焼け止めなんて使ってるわけないのに。 焼けない人、羨ましい。
「んー、私の両親二人で旅行行っちゃったから渡瀬家にご厄介になろうと思いましてねー」
おばさんの許可はとったよ と口角を上げれば、青葉は頭を垂れた。
「ってかさ、勝手に部屋入んなよなー」 「なになに?エロ本でもあんの?」 「なんでそうすぐに極論になるかなぁ?」
青葉は違うからなと呟き、Tシャツを脱いだ。 思わず凝視しちゃった。
「ん?なんだよ」 「いや、抵抗ないの?」 「別に上半身ぐらい大丈夫だろー?」 「うん、見飽きた」
私と青葉は幼馴染みなんだ。 家も隣で、家族ぐるみで仲がいい。 小さい頃は一緒にお風呂だって入ってたんだから、今さら上半身ぐらいなんともない。
それにしても、やっぱりバスケやってただけあってなかなかに引き締まったいい身体。 いつの間に、こんな男の身体になったんだろう。 私の身体は丸みを帯びて、きっと今、一緒にお風呂に入れるかって聞かれたら首を振る。
何歳から私は女に、青葉は男になったんだろう。 これからもっと時が過ぎて、年をとって、私たちの違いは顕著になって、そして、赤の他人みたいになってしまうのだろうか。
それは、すごく辛いな。 絶対に無いって言えないのが、寂しいな。
「青葉」 「どうした?」 「今日」 「うん」 「8月8日だね」 「あー、うん。だな」
私はただ手にしていた漫画を机に置き、ベッドに横になり、自らを扇ぎだした青葉に身体を向ける。 ゆっくりと立ち上がり、ベッドに歩み寄る。 青葉は私を見上げ、首を傾げた。
「青葉は、もう男の人なのかな?」 「……は?……って、名前!?」
私は青葉に手を伸ばし、その身体に身を寄せる。 胸に額を押し当て、ぎゅっと握り拳を作った。
「一人にしないでね……」
うわ言のように呟けば、青葉は何を思ったのか、私を抱き締めてきた。
「絶対に一人にしないから」
青葉はそう言ってくれたのに、胸騒ぎだけは止まらなくて、私はグリグリ と額を胸板に擦り付けた。
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