お兄ちゃん | ナノ
俺の妹はめちゃくちゃ可愛い。
そりゃまぁ、血縁的な問題だろうけれど、外見的なものを抜きにしても可愛い。
姉二人にはない可愛さがあるのだ。
内面的な可愛さに無自覚なのがダメだよなー。
「兄ぃ、ニヤニヤ気持ち悪い」
そう、これが、この無表情で俺を罵倒してくる人形のような女の子が俺の妹。名前。黄瀬名前ちゃん。
さっきまでソファに座って本を読んでたみたいなんだけど、いつの間に俺の視線に気付いたんだろう。
ハイライトのない暗い瞳がなんとも言えないあどけなさを醸し出している。
「んー、俺そんなにニヤニヤしてる?」
自分の頬を押さえながら聞けば、名前は静かに本を閉じた。そして心底めんどくさそうにこちらへ身体を向けて、
「気持ち悪さが滲み出るくらいにはニヤニヤしてる」
と言い放った。
「あ、滲んでるんだ」
相も変わらず辛辣。
名前はこういう本音は一切隠さないからなー。
「見ないで」
「だって名前可愛いし」
「当たり前。私、兄ぃの妹。可愛いの当たり前」
なんという根拠。
気持ち悪いと言いながらこうやって持ち上げてくるから質が悪い。
思わず可愛いなぁーと名前の頭を撫でると、彼女は俺の手を払い落とした。
えぇぇ……?
「髪ボサボサになる」
「またやってあげるよ」
「いや」
「強情」
「それでいい」
どうやら名前は俺がセットしてあげたお団子ヘアーを気にいってくれたらしい。キョウダイだからか、言葉は少なくともなんとなくで名前が思っていることが分かる。
ちなみに、名前の「うるさい」は照れてる証拠だ。まあ、心のそこからうるさいって思っている時はちょっとニュアンスが変わるんだけど。
「ねぇ、名前」
「……なに?」
「今度二人で遊びにいこうか」
「いや」
「なんで」
「めんどくさい」
「なんなのあんたら」
そこにやって来たのは下の姉。
俺たちのやり取りを見て、げろ甘と舌を出す。
「イチャイチャすんなよ」
「イチャイチャじゃない」
「えー、冷たいなー」
姉は溜め息を吐き、頭を掻く。
完璧に呆れてる。
上の姉なら大爆笑しているとこだ。
「シスコンブラコンも大概にしなよー」
「あははー」
俺が否定できずに笑っていると、名前はソファから立ち上がった。ぎゅっと拳を握って、何かを耐えているみたいな…。
「うるさい…!!」
その小さな口から発せられた言葉は照れ隠しのそれで、俺は思わずニヤニヤしてしまう。
名前は俺のニヤニヤを目の当たりにし、いそいそとリビングを出ていった。
姉はまた溜め息を吐き、「はいはいイチャイチャね」と呟いた。
あー。これが名前の可愛さ。
照れ隠しが犯罪級に可愛いのだ。
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