戦場ヶ原ひたぎ
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「ひたぎちゃん、誕生日おめでとう!」
「あら、名前。覚えてくれていたの」
「だって、七夕じゃん」
当たり前 と胸を張れば、ひたぎちゃんは少しだけ口角を上げた。
ひたぎちゃんが笑ってくれた。それだけですごく嬉しくなってしまう。
「ふふふー。実はね、プレゼントがあるんだー」
「何かしら。もしかして、私が欲しがっていた力を入れずに斬れるステーキナイフ?」
「ちょっと待って、ひたぎちゃんはそれで何を斬る気」
「そうね。耳を削いでしまおうかしら」
「誰の……」
私が震える声で聞けば、ひたぎちゃんは不敵に目を細めた。ぞくりと、背筋が凍る。
まさか、ひたぎちゃん、彼氏の暦くんを……。
「冗談よ」
なんて変わらないトーンで言うから、深い深いため息を吐いてしまう。
よかった。ひたぎちゃんならやりかねないって思っちゃったから。
暦くん、死なないでね。あの人、すごくお人好しだし。
「で、何かしら」
「あーうん。ナイフみたいな高いものじゃないけれど」
私は鞄から少し大きめの紙袋を取り出す。その光景を目の当たりにしたひたぎちゃんは少しだけ驚いた様子で首を傾げた。
「そんな大きな紙袋がよく鞄に入ったわね」
「えへへ。収納術だよ」
「収納術、なんて簡単なものではないような気がするのだけれど」
「そんなことないよ。収納術」
「まぁ、貴方がそこまで言うのならば、深くは突っ込まないことにしておきましょう」
ひたぎちゃんったら、何をそこまで食い下がる必要があったのだろう。確かにちょっと大きな紙袋だけど、名前式収納術を使えば簡単に入るっていうのに。
「で、プレゼントは何かしら」
「急かすね」
「早くしなさい」
「真顔で急かすね」
「早くしなさい」
「はいはい分かったからそんな目で見ないでよ」
私は彼女に紙袋を差し出す。ひたぎちゃんはそれを受け取ると私に背を向けてしまった。
「え!ひたぎちゃん…」
「流石に本人の前で開けるのはいけないでしょう?」
「いや、背を向けるだけなのもどうかと」
「細かいことは……」
そこまで言って、ひたぎちゃんはぷつりと黙ってしまった。どうしたのだろうと彼女の手元を覗くと、どうやら中身を見たみたい。
「名前……」
ひたぎちゃんはこちらを振り向くと、笑っているのか泣いてるのか怒っているのか分からない表情を浮かべる。
こういう時のひたぎちゃんは嬉しいんだけど、それを見せないように必死なんだよ。
本当、かわいいなー。ひたぎちゃんは。
暦くんが憎らしいよ。
「生まれてきてくれてありがとう!私、ひたぎちゃんが大好きだよ!」
ひたぎちゃんはまるで涙を堪えるような顔をして私に抱き着いてきた。
えへへ。不器用だね。
素直に泣き顔を見せてくれてもいいのに。
(ひたぎちゃんなら絶対似合うよ。そのワンピース)
(私の心のように純白ね)
(ある意味ね)
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