不動遊星
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「わぁ……すごい星…」
遊星と二人でバイクを飛ばして着いたのは、人気のない丘だった。
高い木も生えておらず、草原が広がっている。
私たちはバイクを停車し、草原に降り立つ。遊星は自然な流れで私の隣に立つと空を見上げた。
「ああ、綺麗だ」
「ね。今にも落ちてきそう」
「そうだな」
遊星は微かに笑って、私の手を握った。私はそれを握り返す。こうやって手を繋いでいるとすごく落ち着くな。
「ねぇ、遊星」
「なんだ?」
「お願い事をしよう」
「短冊に書かないのか?」
「もうこの際気にしないことにしようよ」
「名前らしいな」
「どういうことよ」
そう軽く笑いあって瞼を下ろす。
遊星は今なにを願っているんだろう。
この空の下にいる人たちはなにを願っているんだろう。
世界平和? 家族円満? 恋愛成就? 成績向上?
たくさんの願いが今、空の下で輝いているに違いない。
その中のたった一つで、とてもちっぽけな願いだけど、どうか、届きますように。
私は精一杯お願いした。
「よし」
強く念じ終わり、ゆっくりと瞼を持ち上げた。すると遊星と目が合う。
「ねぇ、なにを願ったの?」
「……」
「あ、言わない気だね」
「言ったら叶わなくなるからな」
「そういう迷信、信じているんだ」
「なら名前はどうなんだ?」
「ひーみーつ」
「そうか」
遊星はちっとも悔しがらずに言うから、私が悔しくなってしまう。
でも、手は放してあげない。ああ、この繋がる手から願いが伝わってしまうのではないか。心配になって彼を見上げれば、遊星は少し口角を上げた。
「うぅ……」
ずるい。かっこいいからずるい。
私だけドキドキしてるなんて。惚れた方が負けか。
「もー!早く帰ろ!!」
私は遊星の腕を引き、バイクに向かう。遊星は大人しくついてきた。
「あ、そうだ」
バイクの前に立ち思い出した。
私は遊星に身体を向ける。
そうだ。今日はこれを言いにこんなとこまで来たんだった。
「遊星。誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
私が言えば、遊星は目を丸くして、それから目を細める。もしかして、今日が誕生日だってこと忘れてたんじゃ…。遊星ならあり得る。
「さぁ、帰るよ!」
私だけ意識していたのが恥ずかしくて、急いで自分のバイクに乗る。
織姫様、彦星様。
私の願いを聞き届けてくださいますか?
『来年も一緒に7月7日を過ごせますように』
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