15万リクエスト | ナノ

夢見る少女とアンサンブル


いつも着ているパーカーと同じ色のエプロンを着けたさつきが、腕捲りをした。

「よし!頑張ろう!」
「ほどほどにね…」

さつき、スイッチ入っちゃったみたいだけど、大丈夫かなぁ…?

私たちは今、キッチンに立っている。
私の家のキッチンだ。
さつきの家より、本格的な設備が備わってるから私の家にしたんだけど、今更ながらごちゃごちゃにされないか心配になってきた。

桐皇学園高校男子バスケ部の美人マネージャー、桃井さつきは、料理の腕が致命的なほど皆無だ。

中学校時代から同じマネージャーとして働いてきた私は、さつきの料理の腕をよく知っているし、むしろ体験済みだし、今更お世辞なんて言う気はない。

はっきり言おう。
さつきの料理は料理じゃない。
しかも本人はそんなに下手ではないとまで思っているらしい。

そんなさつきが何を思ったのか一念発起。
「テツくんのために手料理を作りたい!」なんて言い出したのだ。

その発言を聞いた私と青峰は出来うる限り精一杯さつきに制止をかけたが、なぜか彼女の意思は揺るぎなかった。

青峰はその意思が頑強であることに諦めて、私にさつきを託したのだ。

「俺は今からテツに鎮痛剤を届けに行くから、お前がさつきについて、できる限り"まし"な料理になるようにしてくれ」
青峰はいつもは絶対に見せないような真剣な顔で、私の肩を叩いた。
私はそれに頷いて見せ、作戦を開始させたのだ。

全ては黒子のため。
それが今日の私たちのスローガン。

「と、とりあえず、お肉切ろっか!!」

鶏肉を丸ごと揚げようとしているさつきの腕を止める。

しかも下味つけてないし、小麦粉まぶしてないし。

唐揚げを作る気なんだよね?
素揚げしてどうするの?
レシピ置いてあるよね?
あれ、レシピが開いてない。
まったく意味ないよ!?
これ、なんのためのレシピなの!?

「あ、やっぱり切るんだ。なんかちょっと大きいなーって思ってたんだ!」
「うん、疑問に思ったら実行しないで、私に聞いて?」
「うん!ありがとう、名前ちゃん!でも、大丈夫だよ!」

私に任せて! とさつきはウインクする。

どうしよう。
全然任せられない。
しかも大丈夫じゃない。

「ね、猫の手!」

自分の指を切りかけたさつきに咄嗟に声をかける。
さつきは瞬時に指を引っ込める。
もうすぐで凄惨な事件現場になるとこだった。
そして唐揚げから真っ赤な何かが溢れ出すようになるとこだった。

でも、安心のため息も吐けない。
というか、さつきがキッチンに立ってる以上安心なんて無い。

「………」
「だ、大丈夫?」

さつきはすごくゆっくり刃を通していく。
鶏肉はつぷつぷと音を立てながら切れていった。
いつもさっさと切っちゃうから、こんな音初めて聞いたよ。

さつきはまたゆっくり刃を引く。その目は真剣そのもの。

その刃を引き終わる頃には、ちゃんと肉は二分されていた。

「やった!ちゃんと切れたよ!」

なんだろう、この気持ち。
鶏肉を切るなんて、全然すごくないハズなのに。

私、感動してる。

さつきが鶏肉を切れるようになる日がくるなんて……。
か、感慨深い…!!

「じゃあ、揚げよっか!」

あ、やっぱりダメだ。
私は二分されただけの肉を手にして笑うさつきに頭痛を覚えた。

これ、黒子にちゃんとした唐揚げを提供できるの、いつになるんだろう。


……………………………………

リクエスト第八段は水海月様リクエストの「黒子のために料理の練習をする桃井を応援」です!

ももーいがかなりアレな子になりました(笑)
ま、まあ、仕方ないよ
ももーいだから
女の子だけの空間…書くの楽しかったです!

今回もリクエストありがとうございました!