アジアンタムの純情
「遊馬、強くなったよね」
私の言葉に遊馬は首を傾げる。
その隙に私は二枚のカードを重ねてエクシーズ召喚をした。
今は遊馬の部屋でデュエル中だ。座ってやる普通のデュエルだから迫力はないが、お互い練習でやっているだけなので問題はない。
「どういうことだよ、それ」
「いやいや、デュエルの腕も、精神的にも」
アストラルはもういない。
それでも遊馬は、十分強くなっている。
伏せカードを読み上げながら伏せてたくせに。
世界の問題とか、命の問題とか、そういうものを全部解決して、遊馬は今ここにいるんだ。
強いよ、遊馬は。
「ねぇ、遊馬」
「今度はなんだよ」
遊馬はドローをし、手札を確認しているみたいだ。私は自分の伏せカードを確認しながら彼に聞く。
「小鳥とはどんな感じ?」
「うわぁああ!!」
「え」
私の伏せカードの上にガガガマジシャンがヒラリと乗っかった。何かと思えば、どうやら遊馬が手札をぶちまけたらしい。
「ゆーまー?」
「だ、だってさ、名前が…!!!」
「気になるんだもーん」
気になるに決まってる。
一応小鳥は遊馬に告白した。したはずだ。なのに、なんの変化もないなんて絶対におかしい。小鳥は遊馬を待っているはず!
「女の子に告白させるって、男としてどうなんだよー」
「だ、だってあれは…!!」
「いいわけご無用!」
「なら名前はベクターとどうなんだよ!」
「ギャアアア!!!」
私は手にしていたカードを思いきりぶちまけてしまう。遊馬をチラリと見れば、意地悪げに笑っていた。
む、ムカつく…!!
「告白したんだろー?」
「や、ややややめてよバカ!!遊馬鹿!」
「どうなんだよー、教えろよー」
「どうもしないってば…!!」
遊馬のくせに。遊馬のくせに。
ひとをニヤニヤしながら見やがって。私は本気なんだぞっ!
私が絶対に言うまいと頬を膨らませていると、遊馬はちぇーと諦めの言葉を口にした。だから私はほっと息を吐く。
私にベクターとの話は禁止。
多分、歯止め効かなくなるから。
どこが好きかも分からないけど、でも好きで、わけ分かんないんだもん。
「ほら、遊馬。デュエルの続き続き」
「だな。お互い手札ぶちまけたし、はじめからにするか」
「賛成」
私たちは自分のカードを集めてデッキに入れ、シャッフルをする。そして定位置に置き、拳を向かい合わせた。
「「じゃーんけーん」」
もう一度、遊馬とのデュエルをはじめよう。時間はたっぷりあるのだから。
今、デュエルは怖くない。
前までは命をかけたデュエルだったから心底怖かった。いや、遊馬から笑顔が無くなっていくのを見ていて辛かったのかもしれない。もしくは、どちらも。
でももう、大丈夫。
私たちの世界は守られて。バリアンたちも守られて。私たちは、こうして笑ってデュエルが出来るのだから。
怖くなんて、なくなったよ。
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リクエスト第六段は鳩さんリクエストの「遊馬ときゃっきゃ」でした(笑)
ベクターを取り出したのは策略です
リクエストありがとうございました!