15万リクエスト | ナノ

黄金エトランゼ


「ミザエルってば、どこ見てるの?」

私が彼の綺麗な顔を覗き込むと、ミザエルは少しだけ眉根を寄せてこちらに視線をやった。
しかしその視線は直ぐ様元の向きに戻ってしまう。

答える気はないみたいだ。
まぁ、そんなのはいつものことなので、もうムカつきもしない。

私は仕方なしに身体を動かし、ミザエルの背後に立った。
そして同じ高さから同じ方向に視線をやる。

「あ、月だ」

そこにあったのは濃紺の空に白々と輝く月。
ミザエルは私の言葉に短く頷いた。
やっぱり、月を見ていたんだ。

「なぁに?いきなり。どうしたのよ、ミザエル」
「いや、もう昔のことだと思っていただけだ」
「ああ……カイトくんの…」

カイトくんは月で亡くなった。
確かに一度亡くなった。

多分それを悲しんだのはハルトくんや遊馬くんだけじゃない。
私はもちろん。ミザエルだって、辛かっただろう。
自分のライバルが、存外あっけなく息を引き取ったのだから。

しかし、カイトくんはヌメロンコードの力で生き返った。ミザエルも生き返った……らしいんだけど、私はミザエルより先に死んでいたから死んでいた事実すら知らない。

数年前のあの出来事は、私たちにとって決してなくてはならないターニングポイントで、私たちはこれからもそれを振り返りながら、省みながら生きていくのだと思う。
私たちが犯した過ちと、分かり合えるという至極当たり前で、それでいて至極難しいことを。

「ふふ。ミザエルがノスタルジーに浸るなんて珍しいこともあるね」
「ふん。浸ってなどいない」

ミザエルは素っ気なく言い放ち、「ただ」と続けた。

「あそこに月があるということは、紛れもない事実なのだと思っていただけだ」
「ふふふ。だから、そういうのを浸るって言うんだよ」
「なんとでも言え」
「うん。なんとでも言うね」

ミザエルは腕を組み、そっぽを向いてしまう。私はその背中にのし掛かった。

「おい……」
「なぁに?」
「………なんでもない」

ミザエルは何を言っても無駄だと悟ったのか何も言わなかった。

ミザエルは人間となってから性格が幾分か柔らかくなった。誰に聞いても変わってないと言うのだけど、私には分かる。
きっとバリアン時の高慢な性格と、前世の穏和な性格が足されたのだろう。素っ気ないことを言いながらも、引き離そうとはしないのだ。

「ミザエル、このまま寝ちゃおうか」
「ああ……」

ミザエルは今まででは絶対に浮かべれなかっただろう穏やかな笑みを湛える。
こんな穏やかな時間を過ごせるのなら、死んで生き返った甲斐があったというものだ。

「少しだけ、寝てしまいたい気分だ」

二人で寝転んだシングルベットには、月が照らす澄んだ金色が広がった。



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リクエスト第四段は六月様リクエストの「ミザエルほのぼの」でした!

ほのぼのしてない!!
こんな物でよろしければ受け取ってください!!

リクエストありがとうございました!