夢に落ちる前に
「凌牙ぁああ!!!」
窓の外からそんな叫び声が聞こえた。
俺は何事だと、手にしていたカードを机に置き、窓の外を見やる。
「凌、牙ぁああ!!!」
そこで声を荒げていたのは友人の名字名前だった。
俺は慌てて窓を開け、顔を外に出す。
すると名前はあからさまな反応を示し、必死に手を振り始めた。
「凌牙!!助けて…!!」
「は…?」
時刻は23時を回る。
こんな夜更けに大声を出して、人の名前を堂々と叫んで、何かと思って聞けば「助けて」。
全然意味が分からんのだが。
「凌牙ぁああ!!助けてよぉおお!!」
「あーはいはい!!」
表に回れ と俺が言えば、名前は激しく頷き駆け出した。
なんか小動物みたいだ。
俺は部屋を飛び出て、玄関に急ぐ。
がちゃりと解錠すれば、既に名前はそこに立っていた。
「凌牙大変!!」
「何がだ」
「寝れないよっ!!」
名前は遠慮なんか一切せずに家に上がり込む。今は家に璃緒がいるからいいけど、簡単に男の家に上がるもんじゃないと思う。こいつはいつもそうだ。
ちょっと家が近いからって、押しかけてくんのもなんかな…。
嫌ではないんだけどな。
「はぁ?寝れない? なんで?」
「見ちゃったんだもん!」
名前は何かを伝えたいようで、両手を必死に動かしてるが全然分からない。
おまけにテンパってるのかなんなのかは知らないが、あー だの うー だのしか言わないから、ついに何がしたいのかすらわからない。
「なんだっ、はっきり言え!!」
段々とイライラしてきて怒鳴れば名前は瞳に涙を溜めた。
驚いた。
いつもはこれぐらいじゃ泣くどころか食い付いてくるのに。
まるで名前じゃないみたいで調子、狂う。
「ホ、ホラー…」
名前はがしりと俺の肩を掴んできた。
その目は涙で潤んだまま、不安に揺れている。
「ホラー……?」
「ホラーを、ホラー…!!」
指は小刻みに震え、奥歯がぶつかり合う音のような物すら聞こえてきた。
「ホラー映画見ちゃって寝れないの!!!」
思わず素っ頓狂な声が出た。
なんというか……それを俺に言ってどうすんだって思った。
俺は間違ってないハズだ。
だって、ホラー映画なんて知らねぇよ。
「で、どうしたいわけ?」
俺が窺うように聞けば、名前は間髪を入れずに口を開く。
「添い寝して!!」
「はぁあッ!?」
名前は俺の肩をぐいぐいと押し、果てには腕を掴んで駆け出した。止める隙なんかあったもんじゃない。
「ふえぇぇん!!!」
「うおっ!?」
名前は俺の部屋に駆け込むと、泣き声を上げながら俺をベットに投げる。
気付いたときにはもう名前は隣にいて、抱きつかれているせいで動くことも出来ない。
「ぐすっ……ごめんね凌牙…」
「謝るぐらいなら放せ」
「無理」
名前の頭を押さえ、無理矢理引き剥がそうと試みるが、放そうとすればするほど抱き着く力を強めてくる。
「私と、添い寝はいや……?」
「いやっつーか…」
もちろん嫌ではない。
しかし、思春期真っ盛りには辛いものがある。
仮にも名前は女なのだ。
それを意識するだけでダメだ。
「あーもうっ」
思春期とか、今はそういうの忘れよう。
俺は添い寝は仕方ないことだと割りきって、がしがしと頭を掻いた。そして少しだけ乱雑に名前の頭を撫でる。
「今日だけだからな」
「りょ、凌牙…!!」
名前は満面の笑みで頷いた。更に抱き着く力は強くなる。
少しだけ痛いが、まぁ今日だけなのだから我慢ぐらいしてやろう。
「これからは一人でホラーなんか見るなよ」
「うん…!!うん!!」
何度も頷くその頭を、今度こそ優しく撫でて、俺は瞼を落とした。
……………………………………
リクエスト第三段は森野クマ様リクエストの「ホラーを見て眠れなくなった主が凌牙と添い寝」でした!
若干ギャグチックになり申し訳ないですm(__)m
そして凌牙はいつも通り誰おま←
友達以上恋人未満を意識して書かせていただきました!
中途半端な男女関係が好きなんです!
今回はリクエストありがとうございました!