ROCKET!
「ねぇ、凌牙くん…!!」
私の彼氏である神代凌牙くんは下校中だというのに前を歩いている。隣に並ぼうと急ぐとその分凌牙くんも進んでしまう。横顔すら確認できない。
凌牙くんに告白された時はあんなに嬉しかったのに。私も彼が好きだったから、報われたと思っていたのに。まさか付き合いはじめてからの方が素っ気なくなるとは思っていなかった。
「ちょ、ちょっと…!!凌牙くん…!!」
すたすたと早歩きで歩く彼の背中を必死に追いかける。私は走っているみたいなものなのに全然追い付かない。
隣を歩きたい。手を繋ぎたい。目を見て話したい。聞く耳を持たない彼に何を言っても無駄なのだろう。それでも、願ってしまう。
私は彼女なんだよね? 彼女でいいんだよね? 隣にいていいんだよね? 好きなままでいいんだよね? 凌牙くんも、私のことが好きなんだよね…?
声にならない不安だけが募る。言いたいけど、言えない。これを聞いてしまったら認めてしまうようなものだから。私が悲しいのだと、認めてしまうようなものだから。凌牙くんの負担になるようなことはしたくない。
「おい、何してんだ」
遥か前方から声がして、私は思わず顔を上げる。すごく離れたところに凌牙くんがいた。私、いつの間に足を止めていたのだろう。
凌牙くんは一度頭を掻いてからこちらに歩いてきた。それはもう大股で。一歩一歩に身がすくむ。私、怒られてしまうのだろうか。
「ほら、行くぞ」
「あ……」
凌牙くんは私の目の前までくると、行き場をなくしていた右手を掴んで歩き出した。手を引かれては否応なく着いていくしかない。
「凌牙、くん…」
「…………悪ぃ」
「え…?」
不安になって名を呼べば、凌牙くんは振り向かず呟いた。小さな声だから、聞き逃してはならないと必死に耳をそば立てる。
「俺も、初めてだからな…こういうの…。慣れてなくて悪い…」
「あ…」
そう言う彼の耳は赤く染まっていて、一瞬にして照れているのだと分かる。嘘じゃないのもよく分かる。
「凌牙くん、私のことが嫌いなんだと思った…」
「は?」
やっとそこでこちらを向いた凌牙くんは、訝しげに眉をしかめている。「嫌いな奴になんで告白して、付き合って、一緒に帰んなきゃならねーんだ」本当にその通りだ。でも、そう思ってしまうほど心配だったから。
「むしろ、お前はどうなんだよ」
「どうって、何が?」
「何がって……。無理、してないか?俺が怖くて、無理に付き合ってたりしないか?」
「…バカ」
今度は私が彼の手を引く番だった。じんわりと染み渡る二人分の体温。大切な大切な温もり。決して離したりしない。
「凌牙くんのことが好きじゃなかったらとっくの昔に離れてるよ」
でもきっと、凌牙くんを好きにならない私なんていないから、凌牙くんの隣にいることが私にとっては当たり前なんだよ。
そう続けると凌牙くんは更に頬を朱に染め、あっそ とそっぽを向く。そして、私の手を掴んだまま、またずんずんと歩き出した。
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リクエスト第二十一段は棗様リクエストの「恋人に優しく出来ない初凌牙」です!
まるで少女漫画www
初凌牙楽しく書かせていただきました!
リクエストありがとうございました!