フェ・ディヴェール・ベーゼ
「ベクター様ぁ。ちゅーしましょう。ちゅー」
「あ゛?」
名前はバカみたいな笑顔を浮かべながら言う。そして俺の顔に自分の顔を寄せてきた。
肌と肌がくっつく。だがしかし、なんの感動も生まれない。どうらや名前も同じことを考えていたらしい。うーん と考えはじめる名前は放っておいて俺は人間態に変身した。
つまりこういうことなんだろ。バリアン態の俺たちに口はない。だからキスなんてできないんだよ。
折角 人間態になれるんだ。ならなきゃ損だろ。
つーか「キス」なんて人間の文化を、真似しようとするなんてバカらしいな。まあ、面白そうだからいいけどな。
「あー!そっか!」
人間態の俺を見た名前も人間態になる。これでいっぱいいっぱいちゅーできるね と笑うこいつは無邪気で無垢で、どこか暴力的なまでに扇情的だ。これを無意識下でやるこいつは質が悪い悪女みたいなものだろう。
名前は身を乗り出し俺の頬に口づける。負けじと瞼にキスしてやれば彼女は照れたように笑った。
「次は私ー!」
俺に引っ付きながら名前は背伸びをする。キスされたのは額。ゆるゆるの笑みを浮かべたから鼻頭に唇を落としてやった。
名前はまた無邪気に笑う。こいつはキスの意味を分かってねぇ。ただ興味があることを試してるだけなんだろう。
それがやけにムカついて、俺は名前の耳に噛みついた。
「あ、やっ……」
「キス、してぇんだよなぁ…?」
「う、んっ。こ、れもちゅー……?」
本当にこいつは。何も知らねぇくせにこんな嘘つきに答えを求めやがって。
俺が耳をリップ音とともに舐めてやると、名前の小さな四肢がびくりと跳ねる。
中まで舌を差し込めば彼女は俺の服をぎゅっと握った。
「あ、うっん……あぁ……」
小刻みに漏れる喘ぎ声と、無防備に揺れる身体は、どう考えても俺を誘っているとしか思えない。だがしかしまぁ、こんなぐらいでプツリと逝ってしまう理性ではない。
「あはは………ちゅーって、んんっ、しゅごーい………」
舌足らずにそう溢す名前は俺の耳に噛みついてきた。お返しだよ と囁いてくる声が、俺の粘膜を犯す。たまらず彼女を押し倒し首元に吸い付けばまた名前は笑った。
「あははっ、んぁっ…ちゅーって、ふわぁっ、楽しいね……」
彼女は俺の頭を抱き締めて、唇に唇を重ねる。
「大好きだよ」
その告白は俺に対してなのかキスに対してなのか。分からないけれど、今はそんなことどうでもいいから、お互いを味わっていたかった。
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リクエスト第十九段は莉子様リクエストの「真ベクと色んなキス」でした!
いっぱいいっぱいキスさせました!!!
リクエストありがとうございました!