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「目はなくても泣けるんですよ」
真月くんはそう言って、私の左の空洞を撫でた。
何も感じない。
何もない。
左の目があるはずのそこにあるのは、虚しくなるほどの孔。
真月くんによって作られた孔。
もう、無いのが当たり前にさえ感じてしまう。
私は残された右目だけで真月くんを見上げる。
睨むなんて出来ない。
私は右目が惜しいのだ。
あんなに怖いことはもうされたくない。
「名前さん、もうあの日みたいに泣いてはくれないんですか?」
彼の顔がずいっと近づくが、反射の瞬きすら起こらない。
私はただ、視界に真月くんを納める。
「……」
「壊れた、玩具みたいですね……」
彼は心底詰まらなさそうに呟いて、私の手に触れてきた。
何をするのだろうと見ていれば、真月くんは私の左薬指の爪に唇を落とす。
虚無しか抱かないその唇に、触れたのだ。
私の身体には悪寒が走る。
脳内に響く警鐘は、反射的な物だ。
「爪まで、綺麗だ…」
「………!」
彼は私の腕を引っ張ると、腕だけを拘束するための器具に私の右腕を固定した。
何故かは分からないが、私の腕はピクリとも動いてくれない。
まるで魔法にでもかかったかのように。
さっきの口付けに、魔性の効力でもあったのだろうか。
だとしたら、私はもう助からない。
「や、めて、し、んげ、く、ん……」
弱々しく漏れた言葉は不安定で、まともに文にすらならない。
真月くんはそんな単語だけの声を聞いてもなお、笑顔を湛えている。
むしろ、笑みを深くした。
「僕はね、名前さんの泣き顔も好きなんですよ」
言った真月くんが取り出したのは木製の工具。先端には、何かを挟むかのような形状をした金属の部品が。
喉を冷たい風が通る。
「や、やめて、それ、ご、拷問具だよ……?私なにか悪いことした……?」
恐る恐る聞けば、真月くんは楽しそうに笑い声を溢す。
「悪いことなんてしてないですよ。名前さんは、いつでも僕の大好きな名前さんです」
でもね。真月くんはその拷問具の金属部品に私の右中指に装着し、反対側にあるレバーに手をかける。
身体中から汗が流れ、小刻みに震える。
そのレバーを下ろしたら、私の爪が。
「ゆる、してぇ……」
そんなか細い頼みが届くはずもない。
「でも、僕はその笑顔を壊したいんです」
真月くんは勢いよくレバーを下ろす。
テコの原理で金属部品は下ろす時より数倍強い力で跳ね上がった。
「い………ッ!!」
もちろん、わたしの爪もつれて。
ブチブチという軽快な音と共に爪は剥げ、最初は痛みすら感じなかった。
徐々に神経は正常に働きだし、痛覚は私に激しく訴える。
「イヤァアアアア!!!! つ、めっ、いたっ、あああ゛!!!」
真月くんはにこりと口角を上げる。
そしてそのまま私の右中指を舐めた。
「ヒィッ……!!」
喉はひくついて、上手く悲鳴を上げられない。
爪の下にあった柔らかな肉を、彼の舌がつつく。
涙は止めどなく溢れた。
「きっと今なら、この指、噛み契れますね」
真月くんは歯を見せて呟く。
私は何も言えなくて、ただ淡々と涙を流す。
「ああ、ほら」
そう言いながら真月くんは私の空洞に指を入れた。
そしてその内面を触られる。
脳の下側を触られているような不思議な感覚。
気持ち悪くて吐きそうになる。
「目、なくても泣けましたね」
満足そうに笑う彼が解せない。
ああ、こんなに辛いのならいっそ死んでしまいたい。
そんなことは、彼が許してくれないのだろうけど。
きっと私は、彼に殺されるまで死ねないのだ。
……………………………………
リクエスト第一段はセン様リクエストの「Bulb kiss!後日談、ヤンデレ悪化」でした!!
Bulb kiss!は私が書いてきたヤンデレの中で一番痛いもので、その続きのリクエストを頂いた際は「これ以上やったらやばいんじゃないか」と思いましたが、書いてみたら楽しかったです(笑)
爪、剥がれたくないです
絶対に痛いです、あれ
個人的には眼球より嫌かもしれません
爪がない指って、気持ち悪いぐらい柔らかいんですよ それが嫌です←なんのこっちゃw
リクエスト時のコメント返信はレスページにてします!
今回はリクエストありがとうございました!