15万リクエスト | ナノ

sTrip,O,AuT.


「目はなくても泣けるんですよ」

真月くんはそう言って、私の左の空洞を撫でた。
何も感じない。
何もない。

左の目があるはずのそこにあるのは、虚しくなるほどの孔。
真月くんによって作られた孔。

もう、無いのが当たり前にさえ感じてしまう。

私は残された右目だけで真月くんを見上げる。
睨むなんて出来ない。

私は右目が惜しいのだ。
あんなに怖いことはもうされたくない。

「名前さん、もうあの日みたいに泣いてはくれないんですか?」

彼の顔がずいっと近づくが、反射の瞬きすら起こらない。

私はただ、視界に真月くんを納める。

「……」
「壊れた、玩具みたいですね……」

彼は心底詰まらなさそうに呟いて、私の手に触れてきた。

何をするのだろうと見ていれば、真月くんは私の左薬指の爪に唇を落とす。
虚無しか抱かないその唇に、触れたのだ。
私の身体には悪寒が走る。

脳内に響く警鐘は、反射的な物だ。

「爪まで、綺麗だ…」
「………!」

彼は私の腕を引っ張ると、腕だけを拘束するための器具に私の右腕を固定した。

何故かは分からないが、私の腕はピクリとも動いてくれない。
まるで魔法にでもかかったかのように。
さっきの口付けに、魔性の効力でもあったのだろうか。
だとしたら、私はもう助からない。

「や、めて、し、んげ、く、ん……」

弱々しく漏れた言葉は不安定で、まともに文にすらならない。

真月くんはそんな単語だけの声を聞いてもなお、笑顔を湛えている。
むしろ、笑みを深くした。

「僕はね、名前さんの泣き顔も好きなんですよ」

言った真月くんが取り出したのは木製の工具。先端には、何かを挟むかのような形状をした金属の部品が。

喉を冷たい風が通る。

「や、やめて、それ、ご、拷問具だよ……?私なにか悪いことした……?」

恐る恐る聞けば、真月くんは楽しそうに笑い声を溢す。

「悪いことなんてしてないですよ。名前さんは、いつでも僕の大好きな名前さんです」

でもね。真月くんはその拷問具の金属部品に私の右中指に装着し、反対側にあるレバーに手をかける。

身体中から汗が流れ、小刻みに震える。

そのレバーを下ろしたら、私の爪が。

「ゆる、してぇ……」

そんなか細い頼みが届くはずもない。

「でも、僕はその笑顔を壊したいんです」


真月くんは勢いよくレバーを下ろす。
テコの原理で金属部品は下ろす時より数倍強い力で跳ね上がった。

「い………ッ!!」

もちろん、わたしの爪もつれて。

ブチブチという軽快な音と共に爪は剥げ、最初は痛みすら感じなかった。

徐々に神経は正常に働きだし、痛覚は私に激しく訴える。

「イヤァアアアア!!!! つ、めっ、いたっ、あああ゛!!!」

真月くんはにこりと口角を上げる。
そしてそのまま私の右中指を舐めた。

「ヒィッ……!!」

喉はひくついて、上手く悲鳴を上げられない。
爪の下にあった柔らかな肉を、彼の舌がつつく。

涙は止めどなく溢れた。

「きっと今なら、この指、噛み契れますね」

真月くんは歯を見せて呟く。
私は何も言えなくて、ただ淡々と涙を流す。

「ああ、ほら」

そう言いながら真月くんは私の空洞に指を入れた。
そしてその内面を触られる。

脳の下側を触られているような不思議な感覚。
気持ち悪くて吐きそうになる。

「目、なくても泣けましたね」

満足そうに笑う彼が解せない。

ああ、こんなに辛いのならいっそ死んでしまいたい。
そんなことは、彼が許してくれないのだろうけど。

きっと私は、彼に殺されるまで死ねないのだ。



……………………………………

リクエスト第一段はセン様リクエストの「Bulb kiss!後日談、ヤンデレ悪化」でした!!

Bulb kiss!は私が書いてきたヤンデレの中で一番痛いもので、その続きのリクエストを頂いた際は「これ以上やったらやばいんじゃないか」と思いましたが、書いてみたら楽しかったです(笑)

爪、剥がれたくないです
絶対に痛いです、あれ
個人的には眼球より嫌かもしれません
爪がない指って、気持ち悪いぐらい柔らかいんですよ それが嫌です←なんのこっちゃw

リクエスト時のコメント返信はレスページにてします!

今回はリクエストありがとうございました!