15万リクエスト | ナノ

弱気なあなたも愛しいわ


「すまないな……名前」

零さんは病床で申し訳なさそうに眉を八の字にした。私が気にしないでください と笑っても、難しい顔を止めない。本当に気にしないでほしいのに。

零さんから電話がかかってきたのは二時間前だ。

内容は今日のお出掛けをキャンセルするものだった。最初はドタキャンに悲しくもなったけれど、よくよく考えたら彼はドタキャンするような性格ではないし、電話越しの声が掠れて聞こえたから心配になり、来てみたら風邪をひいていた。

お前に移すのは申し訳ない と私が看病することを拒んでいた零さん。だけど、意地でも看病してやる気でお粥を作ったり、身体を拭いてあげたら流石の彼も口を閉ざしてくれた。

「いいから、零さん、体温計ってください」

彼に体温計を渡すとその端をくわえた。口で計るタイプの体温計なのである。
やつれた顔で体温計をくわえる姿はどこか庇護欲にかられる。

しばらくすると計測の終わりを告げる音が鳴った。
零さんはくわえていた部分をハンカチで拭ってからこちらに差し出してくれる。こんなことに気を配る前に自分の体調に気を配ってほしい。別に嫌だとは言ってない。すごく嬉しい気配りなんだけど。とても零さんらしいし。

「あ……熱、ありますね……」

気を取り直して体温計を見ると、37.5の表示。高いわけではないけれど、熱と判断できる体温だ。
私は体温計をケースにしまい、零さんの枕元に置く。

さて、熱まであったわけだけど、どうしよう。本当は病院に行けばいいんだけど、零さんが素直に医者にかかってくれるのか。不安しか残らないな。そもそもこんな弱ってる姿を誰にも見せたくないのではないだろうか。だから私に何も言わずにキャンセルの旨だけ告げて。

ほんと、気が利くのか利かないのか。振り回されるこっちの身にもなってほしい。

「零さん、とりあえず様子見しますけど、もしこのまま休んでいて熱が上がったら容赦なく病院に連れていきますからね」
「ああ、分かった……」

ごほごほ と零さんはらしくない咳を漏らす。これだけ大人しいと逆に不安になるな。

「名前…」
「どうしました」
「本当に悪いな…」

ありがとう といつもは浮かべないような笑みを浮かべ、私の頭を撫でる。

熱、移ったのかもしれない。私の身体がじんわりと熱を持つ。
なんと返したらいいか分からず膝を擦り合わせていると零さんはくすり 笑みを漏らし、瞼を閉じた。



後日、本当に風邪が移っていた私を零さんが看病してくださるのはまた違うお話。


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リクエスト第十八段は月美様リクエストの「風邪ひき警部を看病」でした!

警部が弱々しくなりました(笑)

リクエストありがとうございました!