15万リクエスト | ナノ

青と白と海と私達!!


「海だっー!!」

八月上旬、遊城家を筆頭にしたいつもの五人組は海に来ていた。
白いビキニで豊満な身を包む遊菜は両手を広げて砂浜に飛び出す。その姿は周囲の目を男女問わず引いた。

「ほーら、砂夜子ちゃんも!」
「あ、いや、私はいい」

遊菜は器用にくるりと回り、後ろから着いてきていた砂夜子に微笑む。砂夜子は遊菜の胸を一瞥してから首を振った。あの隣には立つなと本能が叫んでいる。

「えー!楽しいよー!」
「私はそんなに泳ぎが得意じゃないんだ。生まれの星が砂や岩ばかりだったからな」
「むぅ…」
「わがまま言うな、遊菜」

むくれる遊菜に制止をかけたのは十代だ。砂夜子はさっと彼の背後に隠れる。そこが一番安全だと知っているのだろう。

「泳げないって言ってるんだし、やめてやれ。お前とは違ってインドアなんだよ」
「いや、私の趣味は魚釣りだ。バリバリのアウトドアだ」
「ちょっと黙れ砂夜子」

砂夜子は少しムッとして十代に異議を唱える。十代はそちらを振り向くこともせず、片手で制した。かばってやってんだから黙れ、ということらしい。

「じゃあ……ジムといく!!」

遊菜は荷物持ちとして参加していたジムの下へ走っていく。
砂夜子は小さく首を傾げた。

「十代」
「どうしたんだよ砂夜子」
「なぜジムなんだ?」
「なんでって……あいつら、すげぇ仲いいから…普通だと思うけど」
「そうか……そうなのか」

あの二人は仲がいいのか、と砂夜子は呟く。
いつも砂夜子を挟んで対立をしている二人だから、仲良く遊ぶところなんて予想できないのだろう。

「なぁ、十代…。十代は遊ばなくていいのか?遊菜と」
「なんで?ジムと遊菜が遊んでるんだ、十分だろ?」
「なぜ…なぜお前はそんなに自分を殺す…?」

その言葉に十代の肩は揺れた。
一瞬だけ感じた怒気に砂夜子の背筋に悪寒が走る。

「………そんな話面白くないだろ? ほら、ヨハンがパラソル立ててるはずだから行くぞ」
「ああ……」

砂夜子は深く追求するものではないと理解し、こくりと頷く。
十代の背中についていくと、その肩越しにヨハンの姿が見えてきた。

「あのさ、砂夜子」

十代は少しだけ首を巡らせ、砂夜子に微笑みかける。
だがその笑顔は全然笑っていなかった。

「俺、遊菜とはそんな仲になれないから。なっちゃ……いけないんだよ」

砂夜子は何も言えず俯いた。


◆ ◆ ◆


「ジム!」

浅瀬で泳ぎながら、ジムと他愛ない話をしていた遊菜は彼の名を紡ぎながらにこりと笑う。
その指は沖の方をしっかりと指差していた。

「どうしたんだい?遊菜」
「沖まで泳ごうよ!」
「Why!?dangerだ!やめておこう」
「泳ぎが下手なわけじゃないんだから、大丈夫だよ!」

ほら、いくよ! とジムの制止を無視して、遊菜は沖に向けて泳ぎ出す。
ジムは慌ててその背中を追いかけた。
泳ぎでは遊菜に追い付けないけれど、せめて側で見ていなければならない。そう考えたジムは必死にクロールをしたが、やはり遊菜には追い付けない。そればかりがぐんぐん距離が開いていった。

「遊菜!速すぎないか!?」

ジムは一回止まってその背中に声を投げ掛ける。すると遊菜も泳ぐのをやめ、こちらを振り向いた。距離は既に30mほど空いていた。

「ジムも早く来なよ!!一緒に沖まで……っ!?」

その刹那。

遊菜の身体がいきなり海の中に沈んだ。何があったのか分からないジムは呆然としていた。
辛うじて手を動かしてるため顔は水面から出てるが、苦しそうだ。

「遊菜!?」

はっとしたジムは遊菜を助けるために泳ぎ出す。
必死に手を伸ばすが、30mが長い。

「ジ、ムっ」

遊菜も手を伸ばすが、空を切るだけ。

「遊菜っ!!遊菜ぁ!!」

ジムが伸ばしたその手は、遊菜まであと数cmの空間を掠めた。届かない。
ジムはもう少しだとまた手を伸ばすが、遊菜の身体はずぶんっと音を立て、海の中に飲み込まれてしまった。


◆ ◆ ◆


「ヨハン、入るぞ」
「はいはい、どーぞ」

ヨハンがたてたパラソルの下に身体を滑り込ませた砂夜子は、プールの時と同じようにパーカーを羽織り、体育座りをして、ただただ水面を見つめていた。
規則正しく満ち潮を繰り返す波は、砂夜子を安心させる。

「あれ、砂夜子と遊菜は一緒じゃないのかよ」
「……遊菜じゃなくて悪かったな」
「そんなこと一言も言ってないし……」

ヨハンはため息を吐き、砂夜子の隣に座り込む。砂夜子は無言でヨハンに手のひらを見せた。ヨハンはそれだけで砂夜子がなにを求めているのかを察し、その手にクーラーボックスで冷やしておいたオレンジジュースを渡した。伊達に付き合いは長くない。

「砂夜子の気持ちがわかる自分が怖い……」
「いい心がけだ。お前、執事に向いてるんじゃないか?」
「遊菜の専属なら!!」
「寝言は寝て言え」
「はい」

砂夜子はオレンジジュースを一口飲みながら、十代が歩いていった方を見る。彼は焼きそばを買いに、海の家に言ったのだ。
砂夜子はそれから隣のヨハンを一瞥し、また水面に視線を戻した。

「ヨハン」
「なんだよ」
「十代が……『俺、遊菜とはそんな仲になれないから。なっちゃ……いけないんだよ』って言っていたんだが、意味分かるか?」
「は?なんだよそれ」
「いいから」

砂夜子が迫るように聞くと、ヨハンはまたため息を、今度は深いそれを吐きながら、口を開いた。

「分かるよ、何となくだけどさ」
「分かるのか?」
「うん。遊菜と十代は特別なんだよ。昔っから遊菜って暗いところ苦手だったり、暴力シーンとか流血シーンでフラッシュバックするぐらい脆いんだよ」
「フラッシュ、バック?」
「……俺から言うことじゃないからあまり言わないけど。まあ、だから十代にとって遊菜は守るべき存在で、遊菜にとって十代は親みたいな兄みたいなものなんだろうな」
「家族……か」
「それに…十代は遊菜の笑顔が、遊菜が幸せであることが第一なんだから、自分の感情だけじゃ絶対に動かないんだよ」

分かった? ヨハンは今にも崩れてしまいそうな笑みを浮かべる。それが余りにもらしくなかったため、砂夜子はただ頷くことしかできなかった。

二人は無言で水面を見つめる。
するとどこからか名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

砂夜子はよく耳を澄ませ、それが右の方から聞こえてくるのに気付き、そちらに顔を向けた。

そこには遊菜を背負った状態でこちらに歩いてくるジムの姿がある。

「遊菜!?」
「え、何あれ、羨ましい」

思わず立ち上がり彼女の名を紡げば、ジムに背負われた遊菜が砂夜子に手を振った。よく見るとその後ろから噂の十代がついてきていた。ヨハンはジムの背中にくっつき、変形している遊菜の胸を凝視しながら呟く。

パラソルまでたどり着いたジムはその場にしゃがみ、遊菜を下ろす。遊菜は左足を庇いながら、ゆっくり地面に足をつけた。

「ありがとうね、ジム」
「My pleasure」

少しだけ痛そうに座り込む遊菜に砂夜子が声をかける。

「大丈夫か?遊菜」
「うん、ちょっと左足がつって溺れただけ」
「溺れた!?」
「大丈夫だよ!ジムがちゃんと人工呼吸してくれたから!」
「遊菜!?」
「「許さない!!」」

遊菜の一言にジムの顔面はひきつる。遊菜至上主義の二人は立ち上がり、ジムを追いかけ回しはじめた。砂夜子に追いかけられるジムはどこか嬉しそうだが、ヨハンは確実に仕留める気である。目が血走っている。

「大丈夫か?」
「うん」

十代は遊菜の隣に座り、彼女に今買ってきた焼きそばを手渡す。遊菜はありがとーとにこやかにそれを受け取った。

「楽しかったね、十代」

遊菜の視線の先は一対二のデス鬼ごっこ。十代もそれに視線をやってから、にかっと笑った。

「だな!」

遊菜も歯を見せて笑い、焼きそばのパックを開ける。芳醇なその香りに遊菜の食欲は刺激されっぱなしだ。

「いただきまーす!」

焼きそばを頬張り出した遊菜を楽しそうに見つめた後、十代はまた鬼ごっこを観戦しはじめた。


……………………………………

リクエスト第十四段!
soraさんリクエストの「マーブル組で海」でした!

色んな絡みが見たいとのことなので、ジムゆな、ヨハさよ、十さよ、十遊……と色々やってみましたー
シリアステイストwwwごめんなさいwww

リクエストありがとうございました!