15万リクエスト | ナノ

一秒前交差点


最初はほんの些細なすれ違いだった。

秀徳高校はテスト期間に入り、私と和成は勉強のためにあまり会わなくなった。
私は早朝から図書室で勉強をし、放課後も図書室だ。
和成はどうしてるかよく知らないけれど、赤点をとって部活動停止にならないようにはやっているだろう。

テスト期間になるといつもこうだった。そしてテストが終わったらまた一緒に登校して、下校して。
そうだったはずなのに、なんですれ違ってしまったのだろう。

その日私はいつものように図書室にいた。
そこには珍しく緑間くんがいて、私は彼に苦手な数学を教えてもらうことにした。緑間くんははじめ、すごく複雑そうな顔をしていたが、もともとマネージャーと選手の仲ではあるし、私がそこまでバカじゃないことを知って了承してくれた。

私だって赤点をとって部活動停止なんて嫌だ。何より、和成との時間が減ってしまうから。
だから私は緑間くんと一緒に勉強をするようになってしまったのだけれど、それを和成に見られてしまった。

いや、隠しているつもりなんてなかった。
でも会うことなんてなかったし、言わなくていいかなって考えてたのがいけなかった。

それからは口論だ。
間に挟まれていた緑間くんには申し訳ないし、図書室で大声を出すのはいけないことだけど、止まらなかった。

私も悪い。分かってる。
でも、私がなんのために勉強しているのか、和成は全然分かってない。
私は少しでも長く和成といたいから勉強しているのに。

「はぁ……」
「ため息ばかり吐くな。気が散るのだよ」

緑間くんの言葉に、更にため息を吐いてしまう。一応図書室には来てみるけれど、和成のことばかりが頭によぎって、集中できない。

「和成のばかぁ…」
「勉強しろ」
「ううう……ばかぁばかばか…」
「…………はぁ…」

次にため息を吐いたのは緑間くんだった。
彼はノートに落としていた顔を上げると眼鏡のレンズ越しに私を見つめてくる。
どうしたんだろうと首をかしげれば、彼はまたため息を吐いた。

「何も分かってないのはお前もなのだよ、名字」
「へ?」
「あいつがどれだけ勉強を頑張っていると思っているんだ。まぁ、俺もあまりは知らないが……。だが、確かに高尾はお前との時間を手にいれるために勉強をしているのだよ」

言葉もなかった。

知ってたんだ、そんなこと。
和成がどれだけ勉強を頑張ってるかなんて分かりきってることだった。
だって、あんなに部活に打ち込んでいるのに、テストじゃいつも平均より上はとってるもん。
それは誰にも文句を言われずに部活が出来るように、私と一緒にいられるように。
全部、私と一緒なんだ。

「行ってくる…!!」

私は走った。
和成がどこで勉強しているかなんて知らないから、学校中を走り回った。
教室。屋上。少人数用の教室。特別活動室。
どこにもいない。校舎を回りきった私の足は、勝手に部室に向かっていた。

「和成っ…!!!」

勢いよく扉を開くと、そこには両の目を見開いて固まっている和成がいる。

「名前……」
「みつ、けたぁ……」

私の身体を疲労が襲う。余りの安堵に、膝から崩れ落ちてしまった。

「わっ……と」

私の身体を支えてくれたのは和成だ。両手で、身体で、しっかりと抱き止めてくれる。

「大丈夫?名前?」
「うん……ごめんね……ありがとう……」
「……………俺の方こそごめん。あの後真ちゃんに怒られてさ。あ、電話で。あいつはお前と一緒にいたいから勉強を頑張っているのだよ!ってさ。ちょっと怖かったな、あの時の真ちゃん」
「ううん。私もさっき怒られたよ。同じようなこと、言われた。私たち、思ってることは一緒だったんだね。なのに……なんだか恥ずかしいや」
「そうだね。俺ら、すっげぇ恥ずかしいカップルだよ、絶対に!」

和成は楽しそうに笑いだして、私もつられて笑う。
よかった。和成はちゃんと、私の側にいてくれるんだ。

「これからは一緒に勉強しようね」
「まじ!?」
「なに?嬉しくないの…?」
「嬉しい!けど、集中できるかなぁ、俺」
「緑間くん呼べばいいよ」
「絶対に拒否られる!!」


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リクエスト第十三段
瑞希様リクエストの「高尾とすれ違いから仲直り」でしたー

緑間まじキューピット

リクエストありがとうございました!