15万リクエスト | ナノ

好きとか嫌いなんてなかった


私とベクターは、特に何を事決めることもなく側にいた。
辛くても慰めないし、悪いことしても叱らない。
お互い好きな時に笑って、好きな時に泣いて、苦しめて、苦しんで生きてきた。

でも、ある日から、私たちは共に笑い、泣き、傷つけあったりするようになった。
明確な時期は分からないけれど、気付いたら、そっぽを向いていた私たちは、向かい合っていたのだ。

それはちょっと新鮮で、心ない言葉を吐いてみたり、意味もなく笑ってみたりして、向かい合うということを確認したりした。

結局私たちは、不器用だったのだ。
ただ、それだけだったのだ。

ベクターの言葉は刃のように尖っていて痛い。
でも、そんな刃を躊躇わずに真っ直ぐ投げてくるから、痛みは感じない。
どこか、心地よくもある刃だ。

私はベクターの物で、ベクターは私の物。
そう考えてさえいた。
だって、私たちは、感覚を共有していて、生を共有しているのだから。

「おい、名前。そろそろ行くぞ」

ベクターは私の頭をがしがしと掻き撫でる。
その手にもう、長い爪は生えていない。
ちゃんと、人間と同じ爪だ。

私とベクターは、あの戦いの後、他のバリアン達とは別の道を歩むことになった。

というか、『真月 零』として学校に受け入れられていたのに、いきなり性格が変わったら不思議がられるだろうから、いっそ学校に行かないことにしよう ということになったのだ。もちろん、二人できちんと話し合って。
今さら間抜けな転校生を演じるのも辛いだろうし。

「うん、分かった」

私は立ち上がり、彼の背中を追う。

私たちは行く宛もない。
泊まる場所も考えてない。
そんな旅をしている。
色んな街に行き、様々な人や文化を見て回り、時々デュエルをしては、交流をはかる。
悠々自適な旅だ。

元々アウトローな私たちは、こういう決まりのない旅がお似合いだろう。

今回の街はとても美しかった。
静かな街中。
白塗りの家。
タイルの地面。
朗らかな人たち。

そして何より、この教会。
私は噂に聞いていたこの教会をずっと一目見たいと思っていた。

突き抜けるように高い天井。
太陽の光を纏い室内を照らすステンドグラス。
慈しみに溢れた聖母像。

思わず、ため息が漏れるほど、圧巻。

私は教会から出ていこうとするベクターの服を引っ張る。
彼は足を止めるとこちらを向いてくれた。

「あのね、ベクター」
「なんだよ」
「私、永遠の誓いをされるならここでがいいな」
「………」
「ダメかな…?」

自分でも何を言ってるのだろうと思った。

私とベクターは恋人ではない。
何か、それに近いものだ。
それでも、永遠の誓いをされるならベクターがよかった。

「バカか、てめぇは」
「辛辣」
「そういうのは、順序があんだよ」

ベクターは自らの頭を掻き、それからニヤリと口角を上げた。
背筋がぞわりとする。
全身の怪我逆立った感覚。

「名前」
「は、はい」
「好きだ」
「え…?」
「俺は幸せになりてぇ」
「はい……?」
「だから、永遠に愛してやるよ。俺のためにな」
「…………!!!」

最後まで聞いて、頬が熱くなるのを感じた。
というか、告白とプロポーズが同時って…。順序は合ってるけど、明らかになにかがおかしい。まあ、そこが彼らしさか。
やっぱり、結局不器用だったのだ。

私は拳を握り、ベクターの下腹を殴る。
ベクターは意外な攻撃に驚きを隠せないみたい。
それでいい。

「しょうがないから、貰われてやる」

精一杯の強がりで言えば、彼は吹き出して、私の頭を掻き撫でた。


……………………………………

リクエスト第十段はおまかせということで、好きに書かせていただきました(笑)
楽しかったです!

海希様リクエストありがとうございました!