‖芥子 ……あれ? 私、どうしたんだろう。 えっと、確か、日本に来たんだよね。 あれ?なんで来たんだっけ。 別に世界大会を見に来た訳じゃない。 じゃあ…なんでだっけ……。 ああ、そうだ。 会いに来たんだ。 人に。 彼に。 アメリカ代表。 アーリージーニアス。 サムライボーイ。 ニルス君。 ニルス・ニールセン君。 そして、彼を探そうと思って、街を歩いて、それでそれで…。 会ったんだ。 「ニルス君っ!」 自分が出した大きな声に驚く。頭がガンガンと痛んだ。 あれ? どうしたんだっけ。 倒れたんだよね? ニルス君に会って、倒れた。 自分でもビックリしたのだ。まさか、倒れるなんて。興奮して…なのだろうか。笑えない。 「あ、れ?ここは…」 辺りをキョロキョロと見渡すと、人はいない。まだ日中のようなのだが、ここは公園だろうか。 噴水が見え、一面整備された花畑。私が寝ていた場所はベンチのようだから多分公園だという推理は当たっていると思う。 「ここは……」 「起きましたか」 私が頭を押さえながらベンチに座り直すと、褐色の少年がこちらに歩いてきた。その手には二つ缶ジュースがある。 「え、あの、その」 少年は優しい笑みを浮かべながらベンチに座り、缶を一つ手渡してくれた。私は短く感謝を告げ、それを受け取る。 もしかしなくても彼だよね?そんな風に考える私の心を見透かしたように、彼は恭しく頭を下げた。 「はじめまして。ニルス・ニールセンです」 「知ってますっ」 しまった。思いきり答えてしまった。 私は口元を押さえ、視線を下げる。うう…。恥ずかしい。嫌われてしまわないだろうか。いや、初対面だから嫌いとか好きとかはどうにもならないんだけど。 ニルス君は一度目を見開いてから、ふっ と吹き出し。静かに笑い出した。 私は思わずそちらに視線をやる。 笑ってる。その顔が可愛くて、頭に熱が昇るのが分かった。 「いえ、ふふ…すいません。余りにも元気な方だと思いまして。すいません、悪気はないんです」 「あ、だ、大丈夫……です」 ニルス君は一頻り笑うと、缶のプルタブを持ち上げ封を切り、ジュースを飲み始めた。「オレンジジュースはお嫌いでしたか?」と聞いてくるニルス君に首を振って見せて、私も封を切る。 柑橘類の爽やかな甘さが私を落ち着かせてくれた。 さて、公園のベンチにニルス君と並んで座るこの状況はいったいなんなのだろうか。 私はゆっくりと思考を巡らせることにした。 back |