‖萌黄 ガンプラバトル世界大会の開催地静岡県。僕は開催日の3週間前からこの地に足を踏み入れていた。 何故ならスポンサーが付いたからだ。 ヤジマ商事。日本の大手企業である。僕はヤジマ商事への挨拶も兼ね、早くに日本にやって来たのだった。 挨拶が終わればやることは少ない。僕は日本という国を一度この目で見てみたいと思っていたので、観光目的で外に出た。 模型店が並ぶアーケード。僕は人の間を縫うように歩いていた。確か、このアーケードには大判焼きを売るお店があったはず。是非、日本のお菓子を口にしてみたいと思っていた僕には避けることの出来ない道である。 目的のお店まで後少しのところで、僕は足を止めてしまった。 なぜなら、知らない少女が僕の名前を呼んだからだ。 「ニルス・ニールセン」確かに、そう呼んだ。 僕は静かに少女を見つめる。長い黒髪が日本人形のような少女である。年は然して変わらないだろう。しかし、落ち着きなく周りを見渡す姿は僕の目には年下に映ってしまった。 駄目だ。見た目で判断するのは痛い目を見る典型である。この少女がどんな人かも知らないまま見下すのは決して良いこととは言えず、妥当性も欠いているといえるだろう。 だから僕は、少女に声をかけた。まず、なぜ僕の名前を知っているのかを知るために。 声をかけ、僕がニルス・ニールセンである旨を伝えると、少女はまるで糸が切れた操り人形のように倒れた。 「だ、大丈夫ですか!?」 一瞬動きを止めてしまったが、僕は直ぐ様少女の心拍を確認する。いきなり倒れたんだ、何らかの病気かもしれない。 「っ!」 そっと脈を調べるとあり得ない速さで脈打っている。まさかと思って少女の胸に耳を当てると、弾けそうなほど胸が高鳴っているのが分かる。どうして彼女はこんな風になってしまったのか。僕にはいまいち分からないが、ここにいては通行人の邪魔になってしまうことだけは分かった。 僕はぐったりと倒れた少女の背中に右腕を回し、膝の裏に左腕を回す。そしてゆっくりと抱き上げた。重くはない。むしろ軽い分類に入るだろう。 「すいません、通ります」 僕は上手く肩を使い人の波を割き、アーケードから抜けるために歩く。とりあえず、人気の無い場所につれていって様子を見よう。多分、命に別状は無いと思うが……。 僕の名前を呼んだ少女が、目の前で気絶するなんて、今日はいったいどういう日なんだろうか。 back |