教えてサムライボーイ | ナノ





‖千歳緑


「着いたぞ。静岡だ」

迎えに来てくれたリカルドのバイクに乗り、高速道路を走り、県境を越え、私はついに静岡県にやって来た。
ただ走っているだけだから実感は薄いが、胸の高鳴りが指し示している。強い人達の存在を。ここに、ガンプラの全てが集約されていることを。

「ドキドキするね!」

私がそう声を張り上げれば、リカルドは少しだけ振り向いて笑った。バイクはすごい速さで走っているわけだから、声は掻き消えてしまうと思ったのだが、私の声は予想以上に大きかったらしい。

私は風を身体全体で感じる。強い強い圧だ。楽しみで仕方ない。私はぎゅっとリカルドに抱き着いた。


「ほら、降りろ」

リカルドはバイクを路肩に止めると、ヘルメットを脱ぎ去り降りる。私も言われた通りにバイクを降りた。

見渡す限りの日本人。通りにある模型店の数がガンプラの聖地であることを伺わせる。

「うわぁあああ………」
「おい!あんまりうろちょろすんな……っておい!?」

遠くにリカルドの声を聞きながら、私の足は勝手に動く。ダメだ。ごめんねリカルド。本能を理性で抑えられないみたい。まだ14歳だから、子供だから許して。

気付くとリカルドの声はもう聞こえず、携帯がひっきりなしに鳴り続ける。私はそれが煩わしくて、携帯の電源を落とした。
リカルドがいたら好きに観光も出来やしない。いや、リカルドが邪魔な訳ではないけれど、昔っから彼は過保護で、彼といると私に自由が無さすぎたのだ。

だから、今日はごめんね。
私は心の中で謝ってコンクリートで舗装された道を歩く。可愛い女の子でも見付けたらリカルドに報告しよう。そうしよう。

「ふんふーん!ニルス・ニールセン君はどっこかなー?」

ま、本命はこっちなんだけど。
日本観光よりも人探し。世界大会が静岡で開催されるからには、彼もここにいるはずだ。だから、探せば見付かる!絶対に!

「僕がどうかしましたか?」
「うんうん。君を探し……え?」

私は突如聞こえた声に足を止め、真っ直ぐと前を見据える。

そこに立っている彼を目にし、息も止まりかけた。何が起こっているのかは全然分からない。でも反射的に奇声を挙げかける口を両手で塞ぎ、とりあえず瞬きを繰り返す。

うん、でも、消えない。幻覚じゃない。私はゆっくりと理解した。

褐色の肌。
焦げ茶の髪。
涼しげな目元。

どっからどう見たってそうだ。

「え、ニ、ニルス君ですか…?」
「はい、僕はニルス・ニールセンですが………貴方は?」

瞬間、私の視界は暗転した。



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