![]() ‖東雲 「私、ニルス君のことが好きです」 彼女の言葉が脳内に反復した。 撫子が話してくれた思い。何かを抱えているのだとは気付いていたけれど、それがまさか、僕への恋心だったなんて。 僕はなんてことをしてしまったんだ。もしかして、彼女を傷付けてしまったかもしれない。無理矢理にガンプラバトルで聞き出して。表面上は笑っていた。でも、真相心理までは見抜けない。 僕は彼女に何と伝えればよかったのだろうか。聞き出してしまったことに対する謝罪?彼女好意に対する感謝?いや違う。どれもしっくり来ない。 僕が一番すべきことは、考えることだ。彼女の思いに対する答えを。 だがお生憎様、僕は一度も恋というものを経験したことがない。だからきっと、僕は分からないままなのだ。 「ニルス?どうしたんですの?」 部屋で考えていると、声をかけられた。そちらに顔を向けると、ミス・キャロラインが心配そうな面持ちで立っている。いつの間に入ってきたのだろうか。 「ミス・キャロライン…」 「悩み事なら特別に、このヤジマ・キャロラインが聞いてあげないこともなくてよ。さぁ、ニルス。話してみなさい」 キャロラインは優しく問いかけてくる。いつも傲慢に笑っている彼女だが、性格が悪いわけではない。負けず嫌いで、努力家で、優しさを秘めている。彼女は僕を助けようとしてくれているのだ。 「実は……」 僕は彼女に事の次第を話した。ある少女に出会ったこと。その少女に告白されたこと。自分はその少女をどう思っているのかが分からないということ。 「それはニルス。貴方もその方が好きなのよ」 ミス・キャロラインは、あっけらかんと言った。開いた口が塞がらない。何を根拠に、そう聞きたいが聞くことが出来なかった。 「そんなにその方が気になるのなら、それは恋よ」 彼女は堂々と、はっきりと言葉を紡いでいく。確信したように話す彼女は、どこか心強くもある。 「長い時間関わっているわけでもないのにその方のことが気になって、助けたくて、今そうやって悩むのも、好きだからなのよ」 「簡単に好きだと思わないのは、そうね…」と彼女は瞼を落とし、少しばかり思案する。ある答えにたどり着いたのかミス・キャロラインは瞼を持ち上げ、また唇を動かしはじめた。 「それはきっと、関わった時間が短すぎて、気付いていないだけなのよ。……もしくは、自分がこんなに簡単に人を好きなるなんて思いたくないだけなの」 こじつけてるんだわ。とミス・キャロラインは笑う。 彼女の言葉が、ゆっくりと僕の中に浸透していった。 僕は、撫子が好き。それはまったく違和感などなく受け入れられていく。こう感じるのもきっと、それが事実だからだ。 「ミス・キャロライン、貴方はすごいですね……」 「ふふん!当たり前ですわ!それに比べニルス。貴方は意外と抜けているのね」 ミス・キャロラインはふんぞり返って高笑いをあげる。僕は彼女に感謝を告げ、部屋を飛び出した。今しかないと思ったのだ。 「ミス・キャロライン!感謝します!」 部屋に向けて声を上げれば、出てきた彼女が腰に手を当てて叫んだ。 「早く行って差し上げなさい!男でしょうっ!」 まったくだ。僕は男なのに、撫子に言わせてしまった。ましてや僕は何も応えれなかった。 僕はミス・キャロラインの言葉に足を軽くし、ホテルの廊下を走り抜けた。 back |