![]() ‖猩々緋 ホテルに存在するバトルフィールドで、私たちは向かい合う。 「撫子、フリーダムガンダムロゼッタ!舞いますッ!」 言い慣れた口上と共に、ロゼッタは飛び立った。 戦場は森。鬱蒼と生い茂る木々の隙間をロゼッタは駆ける。 接近戦に持ち込まれたら面倒だ。ニルスくんのアストレイは実刀を携えた接近戦型。一方ロゼッタはプラズマ収束ビーム砲を肩に二本、実弾レールガンを腰に二本備え、手にもビームライフルを持つ遠距離方だ。接近戦になると、背中に背負うビームサイスしか戦う術が無くなってしまう。 フィールドはさほど広くはないが、アストレイは見付からない。 どれだけ森の中を駆け巡っても、その美しい機体は見付からない。 「っどこ!?」 もうすぐで森を抜ける。ダメだ。もしかして森にはいない? 段々と木々が減り、視界が明瞭に広がっていく。 「…ッ……アストレイ…!!」 森を抜けると、そこには岩山が存在した。 その頂点で、太陽を背負い立っているのは、見紛うことなきアストレイだ。 その瞳が爛々と光を放った。 「くっ…!!」 ここで待っていたのか。私は前進するために吹かしていたバーニアを逆に吹かして、二、三歩飛び退いた。間合いを詰められたら勝ち目はない。 「待っていましたよ、撫子…!!」 覚悟…!! その声と共にアストレイは間合いを詰めてきた。 私は手にしていたライフルを投げ捨て、背負っていたビームサイスの栂を掴み、前方に構える。 ビームを射出し、鎌状に変形させた。その直後に実刀とサイスがぶつかる。 「ぐ……っ」 押されている。 アストレイは岩山からの高さもあいまって、まるで押し潰すかのような力でロゼッタを攻めた。 地面にヒビが入り、隆起する。 なんて力…! 私はロゼッタの腕を精一杯に押し出し、アストレイの攻撃を凌ぐ。 「何か……」 この状況を打破するために、私は周囲を見渡した。視界に入るのはアストレイの背後にそびえる岩山。 一か八か…と、私はその岩山に向けてレールガンを射った。 「なに…!?」 驚愕するニルスくんの声が聞こえる。それもそのはず。ロゼッタのレールガンで崩れた岩山が、アストレイ目掛けて崩れてきているのだ。 私はサイスを上手く操り、実刀を受け流す。驚いたためか、先程より押しは強くない。 その隙にバーニアを吹かし、飛び上がる。岩山はアストレイを消し去るように崩れ落ちた。 やった……わけではないだろう。 こんなことでやられるようなアメリカ代表ではないのは分かっている。 「甘い…!!」 崩れた岩山に閃が走る。 更に粉々に切り刻まれた岩山の中から現れたのは背中の盾を頭上に構え、岩山を凌ぎきったアストレイ。 不覚にも、かっこいいと思ってしまった。 きっかけはアストレイだったのだ。あの機体に一目惚れをして、全てが始まった。 だからこそ、負けられない。 私はロゼッタであの機体に勝ちたい! もはや最初のバトルの目的など忘れて、私はこの戦いに全力を注いだ。ロゼッタは私の指示通りに動き、駆け、撃ち、舞う。それを全て受け流すアストレイの美しさと言ったら。悔しさを通り越して、惚れ惚れしてしまう。 ああ、楽しい。 純粋にそう思った。 義父の影響でガンダムという作品に触れ、ガンプラを作り出し、ガンプラバトルを始めた。 リカルドがいたからガンプラバトルにのめり込んで、今この瞬間、アストレイと戦えることに感謝の言葉すら出ない。 来てよかった。出会えてよかった。 「アストレイッ…!!!」 激しい攻防の中、途端に動きを止めたアストレイに向かう。レールガンを放つが、柔らかな動きで避けられてしまった。 しかしそれは囮。 本命は−−−−。 「こっちです……っ!!」 「なっ……レールガンは囮…!?」 振り上げたビームサイス。 その時、アストレイはずっ と片足を引いた。腰をまるで身体を支えるように落とす。 やばい。 本能だった。 あれはビームサイスを防ぐ構えじゃない。 何かある。何かされる。 私は慌ててバーニアを逆に射出する。 しかし、間に合わなかった。 「貴方はとてもお強い。まさか、これを使うとは……」 アストレイが踏みしめる地面が隆起する。距離を取ろうとするロゼッタのコックピット付近に、アストレイの掌が当たった。 「粒子……発勁−−−ッ」 ロゼッタのコックピットが弾け飛ぶ。 私の眼前で、まるで美しい花が散るように。 back |