教えてサムライボーイ | ナノ





‖韓紅花


私は街でニルスくんを見かけ、目が合った瞬間逃げ出していた。分からない。ただ、怖いと思ったのだ。

私は彼が好き。
ニルスくんの側にいると、感情や言葉が溢れそうになる。こんなこと、容易く言えるわけがない。下手したら、ニルスくんに迷惑をかけてしまう。

私は真っ直ぐにホテルに帰った。部屋に隠って、ロゼッタやブロッサムを見つめたり。リカルドの部屋に行こうとして、大爆笑されたことを思い出したり。
他のことを考えても考えても、ニルスくんは頭を離れてくれなくて、私は気持ちを切り替えるために夜風に当たることにした。

しかし、その選択が間違いだったのだ。

ホテルのロビーで、外から帰ってきたであろうニルスくんとばったり会ってしまったのだ。そうだ、ニルスくんはガンプラバトルアメリカ代表。つまり、このホテルに泊まっているということをすっかり忘れてしまっていた。

私は弾かれたように駆け出して、でもやっぱり逃げ切れなくて、ニルスくんに捕まった。強く握られる腕が熱を持つ。嫌だ。変に脈打ってないかな?気付かれないかな?私の思い。

溢れだしそうになるのを必死で止めて。絶対に迷惑をかけないようにって。でも、ニルスくんは退いてくれなかった。

そして出された条件は「ガンプラバトル」。
はっきりと付く勝ち負けで、ニルスくんは私から言葉を引き出そうとしてるのだ。

きっと私も伝えたいの。彼に告げたいの。でも、迷惑をかけるのが怖くて、避けられるのが怖くて言えないのだ。ニルスくんはそれを分かってくれている。だから、勝敗で言うか言わずかを決めようというのだ。もちろん、断ることなんて出来なかった。

「ところで、撫子はガンプラバトルは出来るのですか…?」

ロゼッタを取りに自室に向かう途中、後ろから付いてきたニルスくんに問いかけられる。私は小さく頷いた。「そうですか。いきなり決めたので、出来なかったらどうしようかと思っていました」ちらりと背後を確認すると、ニルスくんはほっとしたように微笑んでいる。私は慌てて前を向き直した。ダメだ。胸が高鳴った。これじゃあ、言わなくても気付かれてしまうかもしれない。それだけは、なんか嫌だな。

「それで、撫子は今どこに向かって…」

ニルスくんは何も知らずに私に付いてきていたのか。思わず苦笑をしてしまった。アーリージーニアスも抜けているところがあるんだね。そういう人間味があるところも好きなんだと思う。

「今は、ロゼッタを取りに自室に向かっています」
「自室?」
「はい。私、イタリア代表であるリカルド・フェニーニの友人でして。その応援のために来ているという名目で、ここに泊まらせてもらっているんです」

会話を交わしていると自室の前に着いた。私はニルスくんに待っているように告げ、部屋に足を踏み入れる。

机の上に堂々と立っている赤色のフリーダムガンダム。私はそれを手に取った。私の大切なフリーダムガンダムロゼッタ。

こんな形でニルスくんと戦うことになるなんて。私は静かに唇を噛み締めた。

私が勝ったら彼に思いを告げずに済む。言いたいと思いはあるけれど、でも、きっと彼に…。

負けられない。
負けたくない。

「勝つよ、ロゼッタ」

私は燃えるように輝くロゼッタを手にして自室を出た。



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