教えてサムライボーイ | ナノ





‖杏


「少し休憩しましょうか」

ニルス君がそう提案したので、私はそれに賛同する。かくして私たちは、近くの公園で休むことにした。

ニルス君との観光は予想以上に楽しい。彼は日本が大好きで日本のことをいっぱい知っているから、説明がいちいち面白いのだ。私が知らない日本を教えてもらってるみたい。

「あの、ニルス君。何か飲み物買って来ます。何がいいですか?」
「え、あ、悪いですよ。僕が行きます」
「いいです!大丈夫です!ニルス君にはこの前のお礼がしたいので…」
「この前のお礼って……」

大したことはしてませんよ。そう謙遜するニルス君を尻目に、私は自動販売機に向かう。何買おうかな?ニルス君は何が好きかな?そう思いながら選ぶと何故かとても楽しい。

自動販売機の前に立ち、更に思案していると一つの商品が目に入った。

抹茶ラテだ。これはまたニルス君が好きそうなものじゃないか。なんて言う私は大好きだ。イタリアの日本料理店でも何度か飲んだことがある。苦さの中に甘さがあって、まさに奥深い味わい。

「これにしよ」

硬貨を入れてボタンを押せば、下の口から抹茶ラテが出てくる。淡い緑色の缶がワクワクさせてくる。

さて、もう一本買おうと身体を持ち上げる。しかし、買うことは出来なかった。

抹茶ラテのボタンが赤く点灯してるのだ。それはつまり売り切れということ。今買った抹茶ラテが最後の一本なのである。なんてことだ。

「飲みたかったな……」

私の手にした最後の一本は、必然的にニルス君の物となった。まぁ、イタリアでも飲めるし……。でも、本場の抹茶ラテ飲みたかった…。

ずっと自動販売機の前で肩を落としても仕方ないので、私は自分用にココアを買うことにした。もちろんココアも大好きだ。抹茶ラテの方が数倍魅力的には見えるけれどね。

「お待たせしましたニルス君」

ニルス君が座っているベンチに戻ると彼は読書をして待っていた。何を読んでいるのだろうと覗けばたくさん漢字が並んでいて分からない。漢字は勉強したハズなんだけど、やっぱりまだ苦手だな。まあ、漢字はそういうところを魅力に感じるんだけれど。

「ああ、お帰りなさい」

ニルス君は本を閉じて微笑んだ。私はそんな彼に抹茶ラテを差し出す。するとみるみる内に笑顔になってくれた。「ありがとうございます!」満面の笑顔を浮かべ抹茶ラテを受け取ってくれるニルス君。そんなに喜んでくれるのなら抹茶ラテにしてよかった。

「喜んでくれてよかったです」

私はニルス君の隣に座り、ココアを飲む。しかしながら視線は抹茶ラテから離れない。一口欲しいとか言ったら、彼はどう思うだろうか。意地汚いかな? 女としてダメだよね…。

「飲みますか?」

そんなことを考えながら肩を落としていると、隣から声がかかった。見るとニルス君が抹茶ラテ片手に微笑んでいる。飲むって…抹茶ラテを? 「いいのですか?」と彼を見やれば「はい」と力強く頷いてくれた。「元は撫子が買ってくれたものですから、何もおかしくありませんよ」と続く。

私は抹茶ラテを受けとり、ニルス君を見ると「どうぞ」と言ってくれた。優しい笑顔。やっぱり好きだなーなんて。

ああ、そうか憧れじゃないんだ。もう。

いつの間にか憧れは恋に変わってたんだ。きっと恋には、時間なんて関係ない。好きだと思えるのならそうなのだ。
そう認識するには十分で、私は一口抹茶ラテを口に含んだ。

苦くて甘い、独特な味がした。



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