教えてサムライボーイ | ナノ





‖砥の粉


一人で街に繰り出したあの日、リカルドにはこっぴどく叱られた。しかし、なんとか許してもらい、条件付きで今日、街を歩いている。その条件は携帯の電源を落とさないことだ。そして、5時には必ず連絡を入れろと言われた。少し心配しすぎではないかと思ったが、心配をかけた身としては何も言い返せず、私は静かに頷いた。

あの日から3日間自由に外も歩けなかった。それがリカルドの過保護の現れでもあるのだろう。だが、3日間も外に出ていないのだから必然的に鬱憤が募る。今日こそは、日本を楽しもうと繰り出した。
そして、出来ればまた会えたら…。そんな希望を体現するかの如く、私の鞄の中には二機のガンプラが入っていた。

勢いよく足を踏み出した瞬間、肩を叩かれた。思わず飛び上がってしまう。

「あっ、すいませんっ」

背後から高めだが綺麗な響きの声がした。もしかして、と私は振り向く。案の定だ。そこにいたのはニルス君だった。

「ニルス君!?どうしてここに!?」
「大会まで時間がありますから、観光です。撫子は?」
「き、奇遇ですね!私も観光です!」

上擦りそうになるのをなんとか耐えて、言ってのけた。するとニルス君は「では」と言葉を続ける。

「一緒に行きませんか?一人では、どこか物悲しくて」

思ってもみなかったお誘いに震え上がった。いいんだろうか、私で。もっとニルス君にはぴったりな人がいるんじゃないだろうか。
この誘いを受けたいのは山々だが、私だったら確実に迷惑をかけることが分かってるんだ。三日前だって…すごい失言しちゃったし。絶対に、引かれたし…。

「わ、私じゃあちょっと……。め、迷惑をかけてしまうと思います…」

勇気を出して言ってみて、罪悪感に襲われた。ニルス君のファンである私が、何を一丁前に断ってるんだろう。何様だ、私は。断れる立場でもなんでもないじゃないか。本当は、すごく嬉しいくせに。

「迷惑なんて、思いませんよ。それとも、僕じゃダメでしょうか?」
「ダメじゃないです!」

あっと思った時はもう遅い。すごい勢いで否定してしまった。だって仕方ないでしょう?誰でも憧れている人にあんな風に言われたら断れないはず。私は絶対に間違っていない。

「それならよかった!」

ニルス君はにこやかに言う。ああ、ダメだ。絶対に敵う気がしない。
私、なんのために一度断ったのだろう。考えても答えに行き着く気はしなかった。



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