「いーちご!」

私は見慣れたオレンジ頭に声をかける。彼は相変わらずのしかめっ面で振り向いた。しかし、私を視界にとらえると少しだけ表情を緩めてくれる。こういうちょっとした変化が素直に嬉しい。

「どうしたんだよ、名前」
「んー!今日がなんの日か分かんないかなー?」
「今日?」

一護は一度斜め下に目線をやり、それから「ああ」と頷いた。そしてしっかり視線を合わせ、口を開く。

「2月14日、バレンタインだろ?」
「一護のくせに知ってるなんて!」
「遊子がうるさいんだよ。今月入って毎日聞いたぜ、「バレンタイン」って単語」
「えー!一護も楽しみだったくせにー」

私がその頬をつつきながら言うと、一護は少しだけ視線を逸らし、「まぁ…一応」と呟く。私は知っている。一護はチョコレートが大好きなのだ。だから、バレンタインは一護にとっては最高の日。
そんな一護によろこんでもらうために、私だって頑張ったんだ!

「はい、チョコレート!」

私は後ろ手に隠していたチョコレートを取り出し、一護に差し出す。彼は一瞬目を丸くしてから受け取ってくれた。

「ありがとな」
「いえいえ、彼女として当たり前だよ。彼女じゃなくてもあげたけどさ」

私が言うと、一護は周りをキョロキョロと見回し始める。明らかに挙動不審な人だ。
どうしたんだろうと首を傾げると、一護が少しだけ顔を寄せてきた。

「好きだぜ」

耳元で囁かれたその言葉に身体中が熱くなる。きっと私、今真っ赤だ。

顔を離した一護は、これまた真っ赤な顔で悪戯っ子のように笑った。