「丸井くんチョコー」 「お!くれるのか!?」 「丸井くん私もー」 「ありがとな!来年もシクヨロ!」 「気が早ーい。早いぞ丸井ー」
教室の後ろの方で、クラスの女の子達がブン太にチョコレートをあげているのが見える。
恋してるわけではないと思う。 ブン太はクラスの中でもコミュニケーション能力が高くて、みんなと友達だから、貰いやすいのだ。義理チョコを。たくさん。 女の子達も、みんながあげるからって、寄って集ってあげるのである。
私は自分の手中に収まるチョコレートに目をやった。 いつもは適当に作るチョコレートを、今年は頑張ってみた。理由なんて無い。ただちょっと、やる気が出たのだ。
「お待たせ、名前!」 「遅いぞ」 「悪い」
ブン太は私の下に来ると、両手いっぱいにチョコレートを抱えて笑う。すごく嬉しそうだ。ブン太は甘いものが好きだから、嬉しいに決まってるだろうけれど。
「ほい」
私はブン太に包みを投げ付けた。ブン太はそれをしっかりと受け止めると、中身を理解したのかふにゃりと笑う。
「俺、名前のチョコが一番好きなんだよな」 「へー。初耳」
とかそっけなく返事をするが、内心は嬉しい。ブン太が、私のチョコを好きだって。 たくさん貰ってる中で、一番。
一番になれたことが嬉しい。チョコレートを美味しく作りたいとかそういう意味じゃなくて、ただ、ブン太の中で何かの一番になれたことが素直に嬉しいのだ。
自分でも分かっている。自覚している。私はブン太が好きだ。だから、好きな人の中にいれることは嬉しい。 何かの一番である限り、私はブン太の心にいれる。
ブン太が抱えるたくさんのチョコレート。私のチョコレートもその中の一つであることに変わりはない。でも、私は一番上で存在を主張出来るのだ。
ああ、出来れば私の心だって届けばいいのに。チョコレートにだって、私の心をいっぱい込めたのだ。積めたのだ。それでも、ブン太は気づく前に食べてしまうのだろう。溶けてしまうのだろう。
「ブン太ー」 「ん?どうしたんだよ」
ふとブン太に視線をやると、彼はもう私のチョコを口にしていた。最初こそ驚いたものの、思わず吹き出してしまう。
「あはは!早いよブン太!」 「そうか?うまいから仕方ないだろい?」
ああ、やっぱりいいや。 私は、一番じゃなくても。チョコレートがブン太の一番にいてくれれば。心なんて、届かなくてもいいや。
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