私はそっとポケットに触れた。ここにはハンカチと絆創膏と…小さなチョコレートが入っている。
これは私がマネージャーとして排球部のみんなのために作って来たものだ。今日はバレンタインだから、頑張って手作りをした。美味しいとは思うけれど、みんなの口に合うかが心配である。

「あれ?名前?」

体育館前でポケットに触れていると後ろから声をかけられた。
首を回らせて視線を背後に送れば、学ラン姿のノヤがいた。あれ?みんな部室で着替えていると思ってたんだけれど。

「何やってんの、ノヤ」
「補習ー」
「ああ」
「納得すんなよな!」

納得する。だってノヤだし。どんな物事より「補習」が一番しっくり来た。

「まあ、いいか。名前は何してんだよ」

ノヤは体育館を指差し入れば?と首を傾げてくる。私はクスリと笑ってポケットから一粒のチョコレートを取り出す。
そして何も言わずノヤに投げ渡す。

「うわっ」

ノヤは少しオーバーに声を上げて受け止めてくれた。そしてそれが何かを確認してその名前を呟く。「チョコレート?」と、そう端的に。

「マネージャーからの慈悲」
「おお!今日はバレンタインだっけか!!ありがとな!」

ノヤはそう笑って体育館に入っていく。その背中を見つめ、頭を抱えたくなった。

好きだ、なんて言えないよね。

実はノヤのチョコレートだけハート型なのは言わなくてもいいだろう。