「まーなみ!ハッピーバレンタイン!」

私が真波の教室に駆け込むと、当の本人が目を丸くした。
周りの人たちは最初は驚いた様子だけれども、私だと分かるとなんだとも言いたげに日常に戻っていく。もっとなんかあってもいいだろうに。

「バレンタイン?」

真波のそんな言葉を聞きながら辺りを見渡す。「宮下ちゃんは?」と聞けば、「先生に呼ばれたよ」と返された。なるほどなるほど。宮下ちゃんは先生に捕まっている、と。流石、委員長ちゃんは違う。

「バレンタインだよー真波ー」
「そっか……もうそんな時期か…」
「時期というか、今日だからね?」
「え?今日?ああ、だから東堂さんが紙袋を抱えてたり新開さんがチョコレート味のパワーバーを食べてたりしたんだ」
「紙袋……流石」

チョコレートが大量に入った紙袋を抱える東堂さんが容易に想像できて笑った。きっとすごく自慢気な顔をしていたことだろう。

「ということで、私も作りました!チョコレート!」

私がチョコレートの入った包みを取り出すと、真波はそれを見て驚いたように声を上げる。ふふふーん。今回ははじめての手作りだから、ちょっとぐらい驚いてもらわないと困る。

「はい、真波!」
「え?俺がもらっていいの!?」
「うん!真波のために作って来たからねー」

チョコレートの包みを受けった真波はどこか嬉しそうだ。つられて私も笑ってしまいそう。
喜んでもらえたのならよかった。貰われなかったら如何せん本命なだけ辛いものがある。真波はちっとも分かってないのだろうけど。そこが好きなんだよねー なんて思っちゃうのはもう末期なのだろうか。

未だにニコニコ笑ってチョコレートを見つめている真波をそっと見つめた。