チョコを作ったは良いけど、どうしよう。

いや、渡す人は決めてるんだ。でもどうやって渡すかが問題。

私はあいつが好きで、そのつもりでチョコも作ったのだから本命と言うべきなのだろうが、それは言ってはいけないのだと思う。
言えばきっと、彼は私から離れていく。なんの別れもなく、前触れもなく、離れてしまうだろう。それが予測できているのになぜ言えようか。私は愚かじゃない。節制ぐらいは出来る。

「デュオ」

私は『あいつ』、デュオ・マックスウェルに声をかけた。長い髪を三つ編みした15歳の少年は朗らかな笑顔を湛えこちらに振り向く。
本当に彼は死神なのか。そんな素振りはない。

「どうしたんだよ」
「バレンタインだからチョコ」
「チョコ?」

私はポケットから小さな包みを取り出す。他の義理チョコと同じデザインの箱にした物だ。カモフラージュのためである。僅かでも悟られないように。
中身も一切変わらない。不審に思われることはしないと決めたんだ。

「ありがとな!」

にこやかな笑みを見せてくれるデュオに、心臓が高鳴った。ああ、やっぱり好きだ。でも、表には出さない。絶対に。

「義理チョコだからねー?勘違いすんなよー?」

私が笑いながら言えば、デュオも声を上げて笑って「分かってるって」と返してくれた。なんも分かってないよ。そう言いかける唇を閉じ、私は精一杯笑った。