「ニルス君、日本には2月14日に女の子が好きな男の子にチョコをあげる日があるんです」
「ええ、知っています」
「うん、だから私のチョコレート受け取って」
「え?」

目の前で朗らかに笑う彼女は、今なんと言った。今の発言は前置きを受けてからなのか、前置き無しで考えたらいいのか。もし、前者だとしたらこれは……。

「名前……。もっと日本女性らしく出来ないのですか?」
「いや、日本女性的にバレンタインを楽しもうとしてるんだよ」
「屁理屈ですね」
「屁理屈で結構。私は本気だから」

押されたら退くわけにもいかない。僕は覚悟を決める。名前がその気なら正面から言葉を受け止めよう。

「ニルス君」

名前は今までの見たことの無いぐらい真面目な顔付きになって、チョコレートを取り出した。多分ラッピングも自作だと思うのだが、余りにも綺麗に包装されている。きっとすごく大変だっただろう。

「好きです。受け取ってください」

僕は差し出されたそれを受け取る。なぜか重く感じた。非科学的なことは信じたくないのだが、このチョコレートには重いと錯覚してしまうほどの愛が込められているのだろう。

「返事は一ヶ月後でお願い」

名前は不器用に笑ってみせる。返事は一ヶ月後。そう、ホワイトデーだ。僕は名前を見つめ、深く頷いた。