台所から聞こえるガチャガチャという音がひどく耳障りだ。それがさっきから続いている。
私だって寛容ではない。だから、少しだけ強く言ってやろうとソファを立ち上がった。
「ちょっとアリト、うるさいんだけど」
アリトは私が台所に来たことに驚いたのか、あからさまに距離をとってきた。少しだけいらってする。
「さっきからどうしたの、いったい」 「いや、え、べ、つ、別に…」 「チョコレート?」
私がぼそりと呟くと、アリトは「なんで知ってんだよ!!」と叫びながら仰け反った。知ってるも何も……と思いながら私はキッチンに開かれた本を指差す。トリュフのページが開いている。どう考えたってこれが今作っているものだろう。相当のバカじゃない限り気付くと思うけれど。アリトは相当のバカみたい。
「アリトがチョコかー」 「だ、だって、バレンタインなんだろ!?チョコレートを配る日!好きなやつに!」 「え?基本は女子が好きな男子にチョコを渡して告白する日だけど。男子はもらう方だよね」
チョコレートを配る日っていうのもあながち間違ってはいないが、訂正はいれておく。すると、アリトの目が真っ白になった。
「じゃあ…この俺の頑張りは…」 「水の泡?いつもの空回りじゃん」 「いつもじゃねぇ!!」
半泣き状態のアリトが可愛くてついついいじめたくなってしまう。アリトは小さく「うぅ……」と唸ると、湯煎にかけいたらしいボールをキッチンに置く。
「せっかく名前にあげようとしたのによ……」 「は?」 「え?」 「私?」 「だって好きなやつにチョコをあげるんだろ?」 「……………」
ああ、そんなバカな。 今のは恋とか愛とかなのか。それとも友人的な意味なのか。当分は頭痛がとれそうにない。
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