さよなら月夜

「私はあそこに行かなくてはならない」

ミザエル様の視線を辿り、私は静かに頷いた。
紫色の混濁とした空の向こうにあるのは月だ。あそこに、もう一人の銀河眼使いのカイト様がいるのだと言う。

「私も向かいます」
「ダメだ」

私もミザエル様に着いて行く気だったので、片手で制され驚いた。
なぜ?と脳内に疑問符が浮かぶ。だが、何かを言葉にすることなんて出来なくて、私は真っ直ぐミザエル様を見つめてしまった。

「月は危険だ。何があるか分からん」
「だ」

ミザエル様は私を見据え、重々しく呟く。私は慌てて口を開いた。

「だからこそです!危険だからこそ、着いて行くのです!」

私がどうなっても構わない。ミザエル様にもしものことがあったら私はどうすればいいのだ。勝って帰ってきてくれるとは信じている。でも、本当に、もしも、ミザエル様が帰ってこれなくなったら…。

「そんなの……ダメです……」
「心配するな」

ミザエル様は泣きそうな私の肩に手を置いた。伏せていた顔を上げると、ミザエル様が優しく微笑んでいらっしゃる。こんな時に不謹慎かもしれないが、胸の奥がキュッと音をたてた。

「私が名前を置いて消えるなどありえない」
「わ、分かってます!ですが…それでもっ…」
「心配するなと言ったんだ。お前はいつものように私を待っていればいい」
「それは……」

私は小さく拳を作り、ミザエル様を見上げる。涙は絶対に流さない。

「命令、でしょうか……?」

ミザエル様はその双眸を見開くと、私の身体を抱き締めてきた。ミザエル様の腕の中はきつくて暖かい。

「……すまない。こんなことは言いたくない……」

そんな。ミザエル様に謝らせてしまった。申し訳なさで私はつい下を見てしまう。しかし、ミザエル様がそれを許してくれなかった。くいっと顎を持ち上げられたのだ。至近距離でミザエル様と目が合う。バカみたいに鼓動が高鳴る。

「あ……ミザエル様…」
「私からの……命令だ」

静かに奏でられた声音に、私は納得してしまった。
命令。そう言われてしまえばもう逆らうことはできない。私はここで待つことしかできないのだ。

「名前、必ず戻ってくる」
「絶対……ですからね」

私は涙が浮かんだ目でミザエル様を睨む。彼は少し口角を上げて頷いた。

「ああ、分かっている」

重なった唇。お互いの熱を共有するようなその口づけに、私は涙を溢した。



……………………………………

真澄様リクエストの月に行くミザエルを見送る甘でした!

甘………
に、なってますかね?

この度はリクエストありがとうございました!