報復男の独白
彼女を目にすると胸がちくりとするのは知っている。彼女の笑顔に全てが報われた気になるのは知っている。彼女に仇なす者をこの世から消し去りたいと俺が思っていることは知っている。
俺が彼女を好きなのは知っている。
だがしかし、言葉には出来ずにいた。ある時にさらりと言葉にしようとも思ったが、失敗。酒を何杯か飲んでも、彼女を目にすると頭が妙に冴えてしまい、失敗。すれ違い様に、隣に座って、軍議の後に。様々な場面で言葉にしようとしたが、その全てが悉く失敗になった。悪党が聞いて呆れる。
別に彼女に対し盲目になったわけではない。それでも、誰かに「盲目だ」と言われてしまえば否定が出来ない状態になっていた。
口の先まで出かかって、でも出ない。そんな日々がずっと続き、流石に気持ちが悪くなってきた。悶々と渦巻くこの思いを早く言葉にしてしまいたい。
「大丈夫ですか?法正殿」
勝ち戦の酒宴の席で酒をそれなりに飲んだ俺は、身体が熱くなるのを感じ、外に出ていた。夜の風は熱くなった俺の頬を撫でる。月は高くに登り、星は否応なしに輝いていた。
そんな俺の側にやってきたのは名前だった。俺の身体は更に熱くなり、しかし頭はやけに冷静になる。
「名前殿、どうしたのですか?酒宴は苦手でしたか?」
「いえ、宴は好きですよ。楽しいですし。ただ、お酒に弱いので抜けてきたのです」
名前は俺の傍らに立ち、にこりと微笑む。ああ、それも無意識の内にやっているのか。無意識にしても凶悪だ。俺より質が悪いんではないだろうか、名前は。
遠くに酒宴の声が、音が聞こえる。今なら言えるのではないか。滅多にない二人きりだ。これはまさに好機。これを逃したら、またいつ二人きりになれるかが分からない。見ているのはどうせ月と星だけだ。聞こえやしない。誰にも。
「名前殿」
名前は俺の声に、無邪気に顔を上げた。「なんでしょうか?」と小首を傾げる。その仕草一つ一つが可愛いのだと、彼女は気付いているのだろうか。
俺は、ごくりと言葉を飲み込む。やはり音にならない。波に乗らない。
「法正殿?」
今一度首を傾げる名前に私は曖昧に笑って見せた。
「いえ、なんでもありませんよ」
名前は瞬間不思議そうな顔付きになるが、すぐ笑顔に戻る。今はその笑顔で十分だ。
「さて、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね!」
まだ名前の側にはいられるのだから、ゆっくりで構わない。いつか言葉に出来ればそれで。
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むらさんリクエストの不器用法正さんです!
私の初法正を受けとって下さい
それでは、リクエストありがとうございました!