ツァーリ・ボンバ
ひんやりとした空気が頬を撫でる。今日も私はここで目を覚ました。
もう何日が過ぎたのだろう。
私は教え子である真月零くんにストーキングされ、犯されて、監禁された。
誰かを好きになる気持ちは素晴らしいのだと人は言う。でも、真月くんの行動はそんなものだとは思わない。
彼はおかしいの。きっとどこかおかしいの。分かっている。何かがあってこうなってしまったのかもしれない。
その何かは知りたくなかった。彼を信じることが出来なくなっていた。
私は教師失格なのだろう。教え子を信じることが出来ないなんて。
でも、仕方ないじゃないか。私は彼の何を信じればいいのだ。いったい何を。
「先生?」
部屋に真月くんが入ってきた。思わず肩が揺れる。なんでこんな過剰反応をしてしまったのだろう。
真月くんの足音は真っ暗な空間に響く。カーテンで遮られた窓から注ぐ微かな月の光のお陰でだいたい真月くんの場所を把握できた。
手も足も動かない。天井に繋がるロープに縛られているからだ。
真月くんは私の目の前にしゃがみこむと、微かに微笑んで頬に触れてくる。冷たい指。
「外にでも出ていたの?」
私が聞けば真月くんは一度驚いたように目を見開いて、頷いてくれた。ああ、そうか。私から声をかけたのは至極久し振りだったと思う。それで、彼は驚いたのだろう。
「よかれと思って、先生のためにケーキを買ってきたんですよ」
「ケーキ?」
「今日は先生の誕生日ですから」
にこやかに笑う真月くんに涙腺が壊れるかと思った。今の笑みは、私の教え子であった真月くんの笑みだ。まだ彼はいるんだ。
「先生……?名前先生……?」
「ごめん……何でもないの…」
真月くんは困ったような表情になり、そうですか と呟いた。
帰ってきてよとか、返してよとか、そんな都合のいい言葉は言えなくて、私はうつ向く。
「はい、先生。よかれと思って口を開けてください」
精一杯涙を引っ込めて顔を上げる。すると、私のために買ってきてくれたケーキを切り分け、フォークに刺したものを差し出してくる真月くんが笑っている。
私は恐る恐る口を開く。例え彼が私を犯した人だとしても、生徒のプレゼントを受け取らない……なんてことが出来るはずがない。素直に、嬉しかったのだから。
「あーん」
フォークに刺されたケーキを口にすると、甘酸っぱい苺の味が広がる。生クリームの甘さと相まってとても美味しい。
どんどんと食べ進めていくと、私は異変に気付いた。
奥にいくごとに味が変わっている?不思議な味がするのだ。
私は嫌な予感がして、口に含んだケーキを吐き出そうとする。しかし、それに素早く反応した真月くんに口を押さえられてしまった。更に、顎を上に持ち上げられ、無理矢理に嚥下させられる。
「ごほっごほっ!」
激しく咳き込むが、もう飲み込んでしまった。吐き出すことは出来ない。
「もう気付いたんですか?すごいですね、先生」
「な、なぁに?このケーキ…」
「え、媚薬入りです」
悪気のない笑顔で、真月くんは言い放った。
ああ、やっぱり。彼を信じてはダメなんだ。
「さぁ、楽しい愉しい誕生日にしましょうね?」
私は先程とは違う涙を流し、真月くんと唇を重ねた。
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イレーナ様リクエストの「スピリタス続編。監禁話」です
持ち上げて!落とす!
少しでも楽しんでいただければ幸いです!
リクエストありがとうございました!