愛の楽園



「それ、どうしたんですか?」

私が彼の頭を指差すと、彼はあぁ と微笑みそれを手にした。

それは白詰草の花冠だ。

少し乱れたところもあるが、全体的にはいい形をしている。
昔私もよく作ったものだ。

「町の子供たちがくれたんだ」
「優しい子達なのね」
「あぁ、子供は無邪気でいい。滅入っていた気も楽になる」
「あら、滅入っていたの?」

私がクスリと笑えば、彼は 言葉の綾だよ。と返してきた。

そうね。滅入っていた様子なんて見せてなかったものね。
もしそれを見抜けていなければ、私は恋人失敗だわ。

そう、彼は私の恋人、ドルべ。

彼はこの国の騎士として、英雄の呼び声が高い。
国民からの人気も、王城からの信頼も厚い。
そんな彼に愛してもらえている私は幸せ者だ。

だからこそ、この時間を大切にしたい。

彼は騎士。

もちろん、戦いに出るのだ。
そうなれば、いつ命を落とすかなんて分からない。
私はいつも緊張の中で息をいている。

その感覚はいつまでたっても慣れなくて、どこか夢見心地になるのが嫌いだった。
ふわりふわりと不安定な平和の中にいるんだと、否が応でも理解する。

私たちを守ってね そんな言葉、口が裂けても言えない。
私まで彼に重荷を背負わせたくない。

私だけは、いつまでもドルべの帰るべき場所じゃないといけないんだ。

守らなければならないのは、誰でも分かっていること。

戦争から生きて帰るなんて、当たり前のことのように見えてそうではない。

簡単じゃないのだ。
人はすぐ命を落とす。
ましてや戦場など、殺気が溢れている。
互いに殺そうとしているのだ。
そんな殺し合いの仲で、生きるのは容易ではない。
だから私は、「死なないで」なんて言わない。

死ねるときに死んで。
それがドルベの望むことならば、私は大丈夫だから。
きっと悲しくて泣きわめくだろうけれど、それでも大丈夫。

何よりも、自分がすべきことをまっとうしてほしい。
私はそうしているときのドルベが好きなのだから。

「名前…?」

ドルベは私の顔を覗き込んでくる。
考えごとをしていたから、心配でもかけてしまったのだろうか。

「大丈夫よ、ドルベ」

私がそう笑顔を浮かべれば、彼も笑ってくれた。

ああ、その笑顔。
大好きだ。

ずっと側にいてほしいけれど、そんなことは願わない。

ただ、死んだあとに未練がましく出てこないでね。
貴方は貴方の生をまっとうすればいい。

私は、人伝にでも貴方の名前を聞ければ、幸せだから。


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大変お待たせしました…!!
10万ラストはミュウ様リクエストの「英雄恋人主」です!

英雄の恋人という部分を強調したら甘さ皆無になりました(;´д`)

リクエストありがとうございました!