遊覧Ferriswheel



「ベクター!次はメリーゴーランド乗りたい!」
「メリーゴーランドォ?お子ちゃまかよッ!」

いい年してよォッ! とベクターは笑い出す。
私は頬を膨らませ、少しだけベクターを睨んだ。でもベクターはこの渾身の睨みまで笑い飛ばしてしまう。

悔しいけど、まぁいいや。ベクターが笑えているなら。
私はベクターの掌をぎゅっと握った。彼は紫色の瞳を真ん丸にし、訝しげにこちらを見てくる。それを私は笑顔で返した。それに対するベクターの言葉は「きもちわりぃ」だ。分かってるから全然傷付かない。

「けっ。ニヤニヤしやがって」
「メリーゴーランド!行こうよベクター!」
「さっきコーヒーカップ乗っただろォが。次は俺の要望を聞いてもらうぜ?名前チャン」

ベクターはそう言って私の手を引く。

コーヒーカップに、メリーゴーランド。そう、今日は、ベクターと二人で遊園地に来ている。

まさかベクターが遊園地への誘いにOKを出してくれるとは思っていなかったため、私のテンションは常に高い。

「ほら、行くぞ」
「どこに?」

ドキドキしながら聞くと、ベクターはにんまり口角を上げた。

「ジェットコースター」
「え」

それは私が一番嫌いなアトラクション。いつもなら名前を聞いただけですくむ足が、ベクターに引きずられるせいで前に進んでしまう。
嫌だ。その一言すら口から出てこない。

お母さん。お父さん。名前はもうダメかもしれません。

脳内に両親の笑顔を浮かべ、合掌。
今まで様々な乗り物に乗せてくれたパスポートは、地獄への片道切符へと早変わりした。



結果は悲惨な物だ。
大絶叫、大号泣で、最初は楽しんでいたベクターにすらドン引きされた。
面白がった罰だ。

「ベクターのバァカ…!!」
「だから、その詫びに今これに付き合ってんだろォが!」

ベクターはイライラを隠せないように言う。

今は観覧車のゴンドラの中。ずっと泣き続ける私をあやすためにベクターが乗せてくれた。

最初から一番乗りたかった乗り物だし、まぁ、うん、許してやらないこともない。

ゴンドラはゆっくりと頂上を目指し回る。景色はゆっくりと変わり、私たちを天空に運んでくれた。

「あ、もうすぐ頂上だ!」


私がそう言ったのと同時にゴンドラが少しだけ揺れた。


それはベクターが動いたからで、目の前には伏せられた瞼があって。


頂上に着くまでの10秒間。
私の唇の自由は奪われた。


「これでチャラな」

らしくなく頬を染めるベクターとか、唇が熱いとか、よく分かんないことでぐちゃぐちゃになって、私は下唇を噛み締めてしまう。

なにこれ。なにこれ。
こんな幸せ、私が味わっていいの?

そう問いたいのに声は出ない。

それから地上へ降りるまでの時間。私たちは終止無言で、俯きっぱなし。

火照った頬は、明日になるまで戻る気がしなかった。



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ももあ様リクエストの遊園地デート、観覧車でキスです!

なんと可愛らしいリクエスト…!!
ももあ様の理想が描けていたら幸いですが、多分出来てません(断言)

素敵なリクエストありがとうございました!