宇宙人と大理石少女と鍋戦争



「じゃ、鍋はじめるよ!」

夜6時27分。遊城家の食卓には遊菜、十代の他に、砂夜子、ヨハン、ジムといういつも通りのメンバー座っていた。

今日は遊城家主催の鍋の日だ。遊菜は砂夜子を誘い、十代はヨハンを誘った。ジムはどこから聞き付けたのか、呼んでもいないのに来たのだ。
玄関で行われた壮絶な押し合いは十代の記憶に新しい。

ジムを本気で帰そうとする遊菜と、どうしても砂夜子の側にいたいジムの攻防。熾烈を極めた。

その戦いに決着をつけたのはヨハンの一言だった。「じゃんけんでもすればいいんじゃないか?」。二人はその案を採用し、早速じゃんけんが行われた。

結果は遊菜がグー、ジムがパーでジムの勝ち。じゃんけんの結果は30回ほどのあいこの果てのものだ。十代はその様子を見て「お前らどんだけ息ぴったりなんだよ」と少し呆れた。

流石の遊菜も、真っ向勝負の結果に文句は言わない。別に仲が悪いわけでもないので、「まぁ、今日ぐらいは…」と鍋への参加に許可を下ろしたのだ。

「みんな、取り皿とった?箸は?」

何だかんだで世話を焼く遊菜は、机の隅々まで視線をやる。ヨハンは小さく「嫁に欲しい」と呟いた。それを聞き付けた砂夜子は机の下でヨハンの爪先を踏みつける。

「砂夜子!?」
「………」
「おい、砂夜子!!」

砂夜子は涙目になっているヨハンから目を逸らす。砂夜子とヨハンは向かい合って座っている。遊菜がジムと向かい合うのだけは阻止したのだ。ジムの真向かいは十代である。そしてその隣が遊菜で、その隣に砂夜子。

「砂夜子……!!」
「ヨハン、うるさいぞ」
「ヨハン、be quiet.」
「俺が悪いのか!?」

砂夜子とジムの冷たい言葉にヨハンは嘆く。十代はご愁傷さまと苦笑いを浮かべた。

そうこうしている内に、遊菜は鍋の蓋を取る。中から鍋特有のいい臭いが溢れて部屋中を満たした。
砂夜子は素早く箸を構える。遊菜は蓋を机の脇に置くと席に座る。音頭をとるのは家長である十代の役目だ。

「それじゃ手を合わせて…」

砂夜子以外の四人は手を合わせる。遊菜は砂夜子に視線をやった。砂夜子は渋々箸を置き、手を合わせる。しかしその目はキラキラと輝いて鍋から離れない。

「はぁ……頂きます」

十代の言葉に全員が「頂きます」と答える。
砂夜子は光の早さで箸を手にし、鍋から肉をかっさらった。まさにあっという間の出来事にジムとヨハンは言葉を失う。何度か砂夜子と鍋をした遊菜と十代は驚きもしない。

砂夜子は取り皿にとった大量の肉を一枚ずつ口にする。満足そうな笑みを浮かべている彼女を見ると、怒る気も失せてしまう。砂夜子が幸せなら…そう思ってしまうほどこのメンバーは絆されてしまっているのだ。

「砂夜子ちゃん、野菜も食べてね」
「…………………………………………………………ああ」
「え、いや、なに今の間。食べるよね?」
「………………………………………………………………………………………多分」
「すごい間のわりにはっきりしない返答だな」

遊菜は呆れに似たため息を吐いて、箸を手にする。肉、野菜、豆腐、きのこ類。バランスよくとっていく。特に野菜は多めだ。遊菜は年中ダイエット中なのである。
「最近体重と体脂肪率がね…やばいんだ……」先日砂夜子にそう相談した遊菜は大きな舌打ちをされていた。言わずもがな、その重さと脂肪は胸に詰まっている。本人に自覚が無いのが残念である。

「うまいな!」

ヨハンは次々と食材を口にしながら言葉を紡ぐ。ジムもその言葉に頷いた。十代は当たり前だろと胸を張る。

「俺と遊菜の特製鍋だからな」
「味は私が保証しよう」

自信満々に言う砂夜子を見ると、なるほど、この鍋はとても美味しいのだと理解できる。身内贔屓を抜きにしても。
遊菜はなぜか自慢気な砂夜子にくすりと笑い、長ネギを頬張った。



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soraさんリクエストのマーブルコラボ鍋話!
冬終わったよ(笑)

素敵なリクエストをありがとうございました!