ハナミズキ


今のこの空間は静かで、居心地が悪い。私の上司であるベクター様が、デッキの調整をしているからだ。デッキの調整中は無言になる。それは真剣なほど当てはまるだろう。つまり、ベクター様は真剣なのだ。真剣にカードをいじっている。
私もデッキをいじろうとするが、昨日の内に調整をしてしまったことを思い出した。昨日はやることが無かったからな。今さらデッキを取り出してもカードをめくることぐらいしか出来ない。

「ベクター様ぁ…」

余りにも暇すぎて、私はベクター様の肩に顎をのせる。ベクター様はこちらをちらりとも確認せずに「あぁ?」と言った。まるで威嚇のように発せられた言葉が少し怖いが、もう慣れてしまった。

「デッキ調整なんかやめてもっと面白いことしましょうよー」
「………」

無視だ。ベクター様、私を無視する気でいるみたい。私はむっと頬を膨らませてからベクター様の肩を顎で揺らす。「ねぇねぇ、ベクター様ぁー。ねぇー。ねぇってばぁ」何度も何度も揺らせば、がしりとアイアンクローされた。

「痛いです」
「痛くしてんだから当たり前だろぉが」
「ごめんなさい、ベクター様」

ベクター様の握力は高い。そんな手にアイアンクローなんかされたら、頭がギシギシ音をたてるに決まっている。今まで聞いたことも無かったような、鈍い音が脳内に響いた。これ、つまりあれだ。「痛い音」だ。音だけで痛いのが分かる音。

「ベ、ベクター様…!!ギブッ!ギブですっ!」
「……」
「なんで無視するんですかぁ!? あぁ!あ、頭がっ!き、聞いたことも無いような変な音をっ……!!」
「……」
「ベクター様!ヤバイですっ!ほんと、マジ、冗談抜きで!!」

何回も彼の手をタップすれば、やっと解放してくれた。助かった と考えながらベクター様を見れば、彼は平然とデッキ調整に戻っている。解せないのだが。

「ごめんなさい、ベクター様……」

しゅんと反省の念を込めて項垂れると、ベクター様がこちらを向いてくれた。その目は意思の強そうな紫を湛えている。

「今度デッキ調整の邪魔したら無理矢理キスするからな」
「……それ、罰なんですか?」
「ヒャハハハ!!……キス、されたいのかよ。あぁ?名前ちゃんよぉ」

ベクター様は手にしていたカードを無造作に放り投げて、じりじりと這い寄ってきた。デッキ調整はもういいのだろうか。投げられたカードは散乱している。

「むしろしてくれるのなら本望です」

近付いてきたその頬に唇に落とすと、その瞬間に頭を叩かれた。なんという反応速度だ。

「次やったらぶち犯すぞ」
「え、やだ」

ベクター様は私をギリッと睨むと、背を向けてしまう。ああ!せっかくベクター様と話せる時間が出来たのに。

私は懲りずにベクター様に抱き着いて、結局彼はぶちギレた。あんなに煽られながらデュエルしたのは、ほんと、いつ振りだろうか。一勝も出来なかった。調整中のデッキに。



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鳩さんリクエストのベク部下主と真ベクいちゃいちゃです!

鳩さんの部下主で書きたかったのですが、どこまでも私の理想が追求されました
相も変わらずゲス分少なくてもうしわけない

リクエストありがとうございました!