転生の果てに
私には前世の記憶というものがある。それはとても不思議な物で、夢に出てきたり、唐突にその情景がフラッシュバックしたりするのだ。でもこの現象は、生まれた時からあったから、それが普通なのだろうと思っていた。だけど違った。これは、私だけに起こる特別な現象だった。
前世の私は、日本とは違う場所に住んでいて、一国の騎士を慕っているようだ。記憶の中で見る彼は、誰よりも気高く優しく強く。その強固で折れぬ精神で国を守っていた。
前世の記憶の中で見る彼。私は彼を心から慕った。
もし、彼が今世に転生していたら、その記憶に私を留めてくれているのか。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、私はこの目で彼を探すようになっていた。
そして、私はついに見つけた。街の外れにある小さな図書館で。前世の彼に瓜二つの人物を。きっとそうだ。彼がそうだ。彼も転生していたのだわ。
私を覚えてくれているだろうか。私はしがない女官だったのだけど、彼の記憶に存在を残せていただろうか。
私は瞳を伏せ、難解そうな本を読む彼に近付く。近付けば近付くほどに胸が高鳴った。
彼のすぐ隣に立つ。しかし、彼は本に集中しているようで、こちらには気付いていない。私は一つ拳を作り、息を吸った。
「あの…!!」
吐き出した声は震える。彼はゆっくりと顔を上げ、こちらに首を巡らせた。
その紫がっかった灰色の瞳は、スッと澄んでいて、一瞬言葉を失う。前世でも、この瞳に何度も言葉を失ってきた。綺麗だ。何も変わっていない。彼だ と確信するには十分だった。
「ぁ、えと…」
早まる鼓動を押さえつけ、私はもう一度息を吸う。落ち着け。大丈夫。幸いにも彼は冷静に言葉を待ってくれている。
何を言うべきだ?言葉を選べ。慎重に慎重に。
お会いしとうございました?違う。ダメだ。相手に記憶が無かったら、私がただの変人みたいだ。
覚えていらっしゃいますか?これも違う。ダメだ。確認するのも相手をモヤモヤさせてしまうだろう。
ならば、そうだ。
ゆっくりゆっくり思考して。はっきりと吐き出せ。
「お名前を、教えていただけませんか…?」
前世での私たちの関係も、この一言で始まった。ならばまた、ゆっくり始めよう。今世での関係を。
「ドルべ……だ」
ああ、探し続けた名前。声音。
私はまた貴方に出会えた。これを奇跡だと言わずになんと言う。
また私は貴方を慕っていいのですか。ねぇ、神様。私と彼を巡り会わせてくれたことに感謝します。例えこの先何があろうと、私は何も怖くはありません。
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雑菓様リクエスト「前世ドルべを慕っていた主が今世でもう一度出会う」でした!
前世ドルべっていいですよね!
この度はリクエストありがとうございました!