竹谷がたおせない!【完】 | ナノ


fight 6


目を開けると知らない部屋だった。正しくは「よく知らない部屋」。まったく知らないわけじゃない。私は自分のではない布団で寝ていたみたい。
ゆっくりと身体を持ち上げる。部屋は暗く、障子を通るのは月明かりだけで、夜だということが分かった。
頭がいたい。身体が重い。何かとても大変なことがあったような気がする。

そのままぼーっとしていると、障子の向こうに人影があることに気づいた。思わず布団で身体を隠しながら「誰?」と聞いてしまう。声は震えていた。
すると影はピクリと動く。
影はゆらりと障子に手を伸ばし、引いた。月明かりを背負っているせいで顔はよく見えない。また誰か私を襲いに来たのだろうかと震える。

ああ、今さらこんなに怖いと思うなんて。


「えみ里、落ち着け、俺だよ」
「あ……」

その声は竹谷のものだ。
私はふぅっと息を吐く。でも鼓動だけはさっきより高鳴った。
次第に暗闇に目がなれて、月明かりを背負う彼の姿がうすぼんやりと見えてきた。

彼は後ろ手で障子を閉める。そして枕元の蝋燭に火を灯した。
部屋が柔らかい光に包まれる。
竹谷が微笑んでいた。優しい笑顔にまた心拍数が上がる。

私、久々知に襲われそうになったところを竹谷に助けてもらったんだ。

「こんな夜中に起きちまったんだな」
「ええ………ごめんなさい…………ちょっと、疲れたみたいで………」
「いや、まあ、夕方にはもう寝てたからな、長く寝てた方だよ。身体はもう楽か?」

優しい。
調子が狂ってしまうじゃないか。
もっと、ズケズケ来なさいよ。
バカにしてくれてもいいのに。

私は「少し頭が痛いわ」と答えた。素直に言葉が出てしまう。
竹谷はそっかと呟き、もう少し寝ておけと勧めてくれた。きっと寝過ぎで頭が痛いのよ と返すと彼は苦笑する。

時間は穏やかだった。
口喧嘩の時ならわけが分からないぐらい悪態が出てきたというのに。こういう時は何も出てこない。

「蛇」

話題が思い浮かばなくて悶々と思考していると、口をついて出たのはその一言。竹谷は「え?」と首を傾げる。
ああ、我ながらちょっといきなり過ぎたかしら。
でも、本当に何も出てこなかったのよ。

「さっきの蛇………、私を助けてくれたのよね……、久々知を足止めしてくれて……」
「ああ、まあ……いちお」
「あの子……元気かしら。ちゃんとお礼を言いたいわ」
「……!!」

竹谷は私の言葉に瞳を輝かせる。
本当に生き物が好きなんだ。
彼が好きなものに、接してみたい。彼が好きなものをもっと知りたい。

「また今度、会わせてやるよ」

私はその言葉に笑みで答えた。


「好き」を共有したいと思ってるのは、きっとね、私が竹谷に恋をしているからなのよ。



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