fight 4
「はあ……ここなら大丈夫だろ……」
そう言って竹谷は私を下ろした。ここは彼の自室らしい。
相部屋がいなくて一人で使っているみたいで、すごく広く感じた。
「大丈夫か、えみ里」
「え、ええ……」
私は自らの胸元を押さえる。そして襟元がはだけていることを思い出して直ぐ様整えた。
鼓動が、うるさい。
久々知が怖かったのもあるけれど、それだけじゃないわ。これは……。
ちらりと竹谷を見ると「ん?」と首を傾げられた。余りにも優しいその表情に思わず顔をそむける。
そんな。いや、あり得ないわ。
直ぐ様否定する。あり得ない。ええ、あり得ないもの。そもそも人間じゃないもの。
だから……あり得ない………。
でも、さっきの竹谷はヒーローみたいで………。
いや、どちらかというか王子さま………。
ない。
ないわ。
竹谷が王子さまなわけがない。
お姫様だっこをする前に一度舌打ちをするような人が王子さまなわけがない。
とりあえず落ち着きましょう。きっと混乱しているのよ。
貞操の危機と恐怖でドキドキしていた時に竹谷が来たから、そのドキドキを勘違いしただけなの。
だから、彼に恋するなんて勘違いよ。
「ま、とりあえずここにいれば俺が守ってやるからさ」
「あ、ありがとう……」
竹谷が私の頭をぽんぽんと撫でた。にかっと笑ったその顔が腹立たしい。でも、怒鳴り散らすことも恥ずかしくてうつむいた。
おかしいわ。勘違いなのに直視できないなんて。
「さっきはごめんな」
「え……?」
いきなりの謝罪に思わず顔が上がった。
竹谷は目をそらしながら頬を掻く。
「蛇、怖かったんだろ?」
「あ、え、ええ……」
「でもあいつすげぇかわいいからさ、勘違いしてほしくなくて……きっと、触れあったら分かってくれると思ってお前を探してたんだよ」
なぜか、また涙が流れてきた。
竹谷が私を気にかけてくれていなかったら、きっと私の貞操は悲劇を迎えていただろう。
竹谷が、いたから。
なんだ、やっぱり私のヒーローだったんだ。
「え!? えみ里!?」
「ひぐっ……えっぐ……!!」
しゃくりあげながら泣く私に竹谷は心配そうな言葉をかけてくれる。おろおろしているのはなんとなく分かった。
私は「大丈夫」だと伝えたかったのに何も言葉にならなくてただ首を振った。彼はそれ以上何も言わなかった。
信じられないわ。あり得ないわ。
竹谷を、かっこいいと思ってしまうなんて。
彼が王子さまなら素敵なのに、とか考えてしまうなんて。
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