fight 1
まあ、この容姿端麗な私がみんなに愛されてしまうのは仕方ないことだけれど……。
「流石に離れなさぁあい!!」
無理矢理キスを強要してくるなんてあり得ない!
私は押し倒してきた斎藤さんの腹部を蹴りあげて駆け出す。昔から走るのは得意なのだ。忍者だという彼らにも負けない。
私はくの一教室の事務室に駆け込む。そこには驚いた表情の静江がいた。彼女は肩で息をする私を見て状況を理解したらしく、直ぐ様お茶と手拭いを出してくれた。本当に出来た子ね。
「お疲れさま、えみ里ちゃん」
「ほんっとよ!あり得ないんだから!」
あはは と静江は苦笑する。
私はなぜかこの世界にやってきた。理由は不明。正しくは覚えていない。まあ、どうでもいいから忘れてしまっている。
元の世界のことも曖昧だ。でも曖昧になるってことはその程度ってことだから気にしないことにしている。
そして私はこの世界でモテまくっている。まあ、そもそも可愛いから当たり前なんだけど、それがどこかおかしいのだ。
この今私の目の前にいる子。名前は静江。彼女も私のようにある日突然この世界に来て、モテまくっていた時期があったらしい。彼女は男性恐怖症だったからすごく怖かったみたいだけど、今はそれも解決したらしい。
私はモテるのは大いに歓迎、というかこんな可愛いから当たり前のことなんだけど、そろそろ貞操の危機だ。だからこの異常に強引にモテんのをどうにかしたくて、以前それを解決させた静江に相談したところ、「好きな人とキスをすることが鍵」だと言われた。
いや、この状況で人を好きになれる自信がない。
モテモテになるこの現象を私は「逆ハーレム状態」と読んでいる。そのままだ。
この状態にも例外はいる。つまり、私を好きじゃない人。たったの三人だけど。ふう、可愛すぎる私が罪なのかしら。
「あ、静江」
「鉢屋くん!」
ちょうど今事務室にやってきた彼、鉢屋三郎は例外の一人だ。彼は静江と恋仲らしい。幸せそうで何よりね。
「ちょっと三郎!」
鉢屋の後ろから顔を出したのは、彼とそっくりな不破雷蔵。まあ、不破が鉢屋にそっくりなわけではなく、鉢屋が不破にそっくりなんだけど。鉢屋は変装の名人らしくていつも不破に変装しているらしい。最初は全然見分けがつかなかったけれど、今は静江のお陰でそうでもない。
この二人は前回からずっと例外らしい。だから私にとっては心許せる存在だ。
静江の時は例外はこの二人しかいなかったみたいだ。男性恐怖症なのに、さぞ大変な日々を送ったことだろう。
私には、もう一人例外がいる。
ええ、もう、ある意味例外が。
「なんだ、えみ里。また静江に迷惑かけてんのかよ……いい加減にしろよなー」
「んだとゴラァア!!!」
「やんのか……あぁ?」
こいつ、竹谷八左ヱ門。
で、なんでしたっけ?「好きな人とキスをすることが鍵」でしたっけ?
あははは。
こいつだけは絶対にあり得ないわ。
← top →