竹谷がたおせない!【完】 | ナノ


fight 12


穏やかな時間がやって来た。

「あー!とっても楽だわ!」

私の言葉に静江はにこりと微笑んだ。

逆ハーレム状態が止まったのだ。今まで私を追いかけていた人は何事もなかったように暮らしている。久々知と尾浜はすごく謝ってきたけど。特に久々知。
………まあ、すごく怖かったもの、あの久々知は。

「おめでとう、えみ里ちゃん」
「ええ、ありがとう」
「でも、どうやって止めたの?」

私にお茶を出した静江は可愛く首を傾げる。
その無邪気な笑顔で聞かないでほしい。余り自分から言いたいものではないのだから。

「そりゃあ、キ、キスしたのよ」
「え!だ、誰々!?」

静江は身を乗りだし目を輝かせる。いつもは消極的なくせに、やっぱり女の子ね。結局はこういう話が好きなんだから。

「それは………」

「えみ里」

私が静江に説明をしようとしていると邪魔が入った。竹谷だ。竹谷が、くの一教室の事務室を覗き込んできている。静江は少しだけ肩を揺らした。まだ怖いのだろう。私は浅くため息を吐いてから静江が淹れてくれたお茶を一気に飲み干し立ち上がった。

「行くわよ竹谷!」
「おほーっ!?引っ張んなよ!」
「いいから!」

じゃあね と静江に手を振ると、彼女は何かをわかった風に頷いた。流石にバレちゃうかあ。

私は竹谷を引きずりくの一教室から離れる。

「なんでくの一教室の方に来たのよ!」
「そんなの、えみ里がいるからに決まってるだろ?」
「う」

竹谷はさらっと恥ずかしいことを言ってくる。本当に信じられないし、心臓に悪い。日本人が内気で奥手なんて誰が言ったのかしら。どうやら竹谷はそれが欠けていたようね。「うっさいわよ!」と彼の頭を軽く叩くと唇を尖らせ始めた。

先日、私は彼と結ばれた。
もちろん、キスをしたのも彼とだ。
愛する竹谷とキスをしたから逆ハーレム状態はストップした。
不特定多数から向けられる愛ってもの悪くなかったけれど、やっぱり私は竹谷からのただ一つの「好き」だけでお腹一杯。

「つーか、おい、どこ行くんだよ!」
「みんなに会いに行くの!」

竹谷の言葉に強気に返すと、彼は私が何を目的にしているかを察したようで、呆れ気味に笑った。
竹谷の手を引いて、まっすぐ向かうは蛇のもと。生物委員会が飼っている生物たちのもとだ。
久々知の件で助けてもらってから、私は蛇を怖いとは思わなくなった。蛇が大丈夫なら蜘蛛や他の生物も平気になってしまって、こうして度々会いに来ている。

「今日も会いに来たわよー!」

生物委員会の飼育スペースに入ると、木の根元で日向ぼっこをしている蛇を見つける。紛れもない、あの蛇だ。私がその子に手を伸ばすと、彼はシュルシュルと腕に絡み付いてきた。竹谷から聞いたが、この子はオスらしい。

「いい子ね〜」
「あんなにいやがってたくせに…」
「うっさいわよ」

不満げに呟く竹谷を一蹴する。蛇は嬉しそうに私に頬擦りをしてきた。ああ、冷たくて気持ちいいし、なんて可愛いのだろう。

「んー、お前は可愛いわね〜!」

無邪気に引っ付いてくる蛇が可愛いから、思わずキスをしようとすると、竹谷に腕を掴まれた。

「竹谷……?」
「それは、ダメだ………!」

何かを察したのか、蛇は勢いよく私の身体から離れていく。
竹谷は私の瞳をじっと見つめてくる。
彼は私の腕から手を離し、肩を押す。私はその力に誘われるままに地面に倒れた。「竹谷」小さく呟くと、彼は「八左ヱ門」と私を睨んだ。流されるままに彼の名を紡ぐと、竹谷は少しだけ口角を上げた。

「やっぱ………これは他の奴にはやれねぇよ」

そう言った彼は、私に唇を押し付けた。

「蛇じゃない」
「関係ないって」

何度も何度も角度を変えて唇を重ねる。最初は淡白だったそれも、どんどんと熱を持っていく。

バカみたい。
沢山の蛇や毒虫に囲まれて、飼育小屋でこんなことするなんて。
ほんと、バカみたいなのに。
竹谷となら、すごくロマンチックに感じられてしまうじゃない。

私が一番バカね。

「八左ヱ門……」
「えみ里………」

さあ、もう一度唇を重ねて………。


私がそっと瞼を落とした瞬間……。



「きゃああああ!!!!!!!」



平和な忍術学園にこだまする叫び声。呆然としていると、竹谷は浅いため息を吐いて私の首もとに顔を埋めた。

「八左ヱ門……?」
「ああ………まだ続くのかよ………」


「二抜けだ、バーカ」竹谷の弱々しい呟きが頭に染み込む。意味はよく分からないけれど、嫌な予感はしている。


終わった波乱が今一度来る予感。

でも、この幸せは誰にも譲らないわ。



「八左ヱ門」

「なんだ?」

「愛しているわ」

「同感だよ。俺も、愛してる」



-終幕-


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