竹谷がたおせない!【完】 | ナノ


fight 10


※竹谷視点


胸が張り裂けるかと思った。
微睡みの中に聞こえた、えみ里の声に。
何度も「好き」を紡いだ泣き声に。
必死に知らない振りをして、寝ている振りをして………いや違う、ただ、何も出来なかっただけだ。何も出来なかったから、「寝ている」という行為を継続しただけだ。

頭が妙に冴えて何も考えれない。俺は身体を持ち上げて辺りを見渡す。いない。えみ里はいない。
倉庫の扉は少しばかり開いていた。出ていったのだろう。恐る恐る外に顔を出してみると七松先輩が倉庫の壁に背中を預けて盛大ないびきをかいていた。簡単には起きそうにない。

そうだ探そう。えみ里を見つけるんだ。


いや、なんでだ。
探して、見つけて、どうするんだ?
あんなうるさい女。つっかかってばっかりの可愛くない女。
ほっとけばいいじゃないか。
なんで俺はあいつを助けたのだろう。贖罪のつもりか。静枝を追いかけ回していたことに対する、罪滅ぼしか。
自分の中のモヤモヤを一人で勝手に晴らしてるだけじゃないか。自己満足だろ、そんなの。


違うだろ。
そんな、かっこつけたものじゃないだろ。
ただ助けたいって思ったんだろ。
うるさくてつっかかってくる可愛くない女だけど、守りたいって思ったからだろ。

怯えてるのを見て助けたくなった。
服に染みた涙のあとに胸が苦しくなった。
だからあの時唇を重ねようとしたんだ。

蛇と戯れてるあいつを見て考えが変わった。
あいつは怖いものだと、苦手だと思っていたものに感謝を告げるために歩み寄った。その潔さと愚直さがバカにかわいく見えたんだろう。

倉庫であいつに口吸いを迫られてすごく嬉しかった。
反面怖くもあった。これでなにも変わらなかったらそれはえみ里が俺を好きじゃないという証拠だからだ。
適当に言い訳を作って拒んで、泣きそうなえみ里の顔に後悔して、でもどうしようもないからそれ以上を求めないで、それでも俺は上がほしくて、このままでは嫌で、嫌なのに動けなくて、思いを認めることも出来ずに、自らを嘲笑し蔑ろにし後回しに後回しに、思いの欠片を踏み潰してまとめて見えないところに隠して、違うんだと思い込んで、ああ、ああ。と、嘆けどももう遅い。

俺、こんなに女々しかったかよ。

なあ、えみ里。
なんでお前は俺に口吸いを迫った?
「そう」だと思ってもいいのか?
それがお前の思いだと思ってもいいのか?

繋がってると思ってもいいのか?

俺がお前を見つけたら、接吻をしてもいいか?

この現象を止めるための行為じゃない。
二人の思いを確かめるための接吻。

俺はえみ里が好きだから、あとはお前がいればいい。
なあ、だから、俺に捕まってくれよ。




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