たすけてはちやくん!


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最近、雷蔵と静枝が一緒にいるのをよく見かける。一定の距離を保ちながら談笑しているのだ。
最初は微笑ましく見守っていたのだが、だんだんと複雑な気持ちになってきて、私も輪に入れてもらおうと声をかける。すると雷蔵はふいっと視線をそらして、静枝は「用がある」だとか適当にいいわけを付けてそこを離れてしまう。

それだけで、なんとなく分かった。

そうか、二人はきっと恋仲だったんだ。
だから、私が邪魔なのだろう。

なんだなんだ。それならそうと言ってくれたらよかったのに。
これでは私はお邪魔虫ではないか。

雷蔵もひどいなぁ。私が彼女を好きだと知っているくせに。
いや、だからこそ隠しているのか。私に気を使ってくれているのか。


ふざけるな。


私は思わず駆け出した。
まだ私の思いを聞いてもらっていないじゃないか。
ふざけるなよ。二人だけで完結なんてさせてやるものか。



「助けてぇええ!!!」



忍術学園に甲高い悲鳴が響く。
私の身体は理解より早く動き出した。この声は五年長屋の方か。誰だ。兵助か、勘右衛門か、八左ヱ門か。

雷蔵だってこの声を聞いているに決まっている。
それに、きっと静枝は雷蔵を望んでいるだろう。
でも、譲れない。

私が、静枝を助ける。

他でもない、私が。


「いやっ、やめてっ…!!」


静枝の声が近くから聞こえる。これは物置の方か。

駆けて駆けて駆けて。
私は物置に着いた。間髪入れず中に入ると、そこには勘右衛門に組み敷かれる静枝の姿があった。

「勘、右衛門……ッ!!!」

私は思わず勘右衛門を蹴り飛ばす。彼は私の存在に気づいていたようで、床に転がりながらにやりと笑んだ。

「三郎、なかなかいい蹴りじゃん」
「勘右衛門……」

私は床に踞る静枝の前に立ち塞がる。彼女の顔は恐怖をたたえていた。

「お前、何をした」
「んー?何って、まだ何もしてないけど?しいて言うならもっと仲良くしようとした、かな?」
「いい加減にしろ…!!!!」

まったく悪気もなく言う勘右衛門に腹が立った。

私の後ろにいる静枝は小刻みに震えて、ただただ見開いた目で勘右衛門を見つめていた。まるで自分を守るかのように身体を強く抱き締めている。
胸の奥が苦しくなる。こんなに怯えるまで、いったい何をしたというんだ。

何が「好き」だ。何が「恋」だ。
好きな人を悲しませる行為を、私は「好意」などとは呼びたくない。


そうだ、だからきっと、私が雷蔵に嫉妬する気持ちは「好意」ではない。彼女を傷つけようとしている私も、勘右衛門たちと何も変わらない。

ただの「独占欲」。


「静枝……帰ろう」

私の言葉に彼女は小さく頷く。
よかった。拒否されてしまったら立ち直れなかっただろう。

私は最低だな。
自分のことは棚に上げて、周りだけに当たり散らして。
本当は私が一番彼女の側にいてはいけないのに。

「きっと雷蔵が待っている」

静枝は不器用に笑みを浮かべた。
ああ、まだ笑えるのだな。


それは素晴らしいことのはずなのに。
苦しくて苦しくて仕方がない。
いっそ雷蔵になれたら。顔だけじゃなく、全て、雷蔵になれたら、よかったのに。