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※夢主視点
記憶が曖昧だ。
多分私は死んだのだろう。その認識はあるのだが、死んだときの記憶が曖昧なのだ。
気付いたら、私はこの世界にいた。そして、たくさんの男の人に追われることになっていた。
私は小さい頃から男性が苦手だった。それは父親のせいだ。一番近くにいた男性がとても暴力的な人だったから、私は自然と男性を避けるようになった。
みんながみんな暴力的ではないのは分かっている。分かっているけれど、怖くて仕方なかった。
そんな私を救ってくれたのは不破くんと鉢屋くん。二人は他のみなさんみたいに私を追いかけ回したりしない。たった二人だけの心を許せる男性。
毎日のように追われている私を、「仕方ないな」と笑って匿ってくれる人たち。
気づいたら私は、鉢屋くんを好きになっていた。
不破くんの方が優しいはずなのに、意地悪げに笑う鉢屋くんに惹かれた。意地悪だけど優しくて、私のことを考えてくれて、距離感がもどかしくなってきた。
彼は必要以上に私に近付かない。それが私のためだとは分かっている。私が男性に怯えてばかりだから、距離をとってくれているのだ。
でも、それが悔しくて仕方なかった。
本当はもっと近づきたい。彼に触れてみたい。
だから、落とし穴に落ちた時、彼に救ってもらった後、手を伸ばしたんだ。助けたかったんじゃない。触れたかったんだ。こんな時ぐらいしか触れる口実を得られなくて、でもほんのちょっとでいいから触れたかった。
彼は、手をとってくれなかった。私では力不足だからと、自力で穴から出たのだ。
もしかして、私の手は震えていただろうか。無理をしていたように見えたのだろうか。
それとも、私の卑しい恋心が気づかれたのだろうか。だから、牽制されてしまったのだろうか。
今以上の関係を、望むことはいけないことなのかな。
私が、男性を怖いと思うから、いけないのかな。
確かにまだ鉢屋くんのことを「怖い」と思うことはある。でもそれ以上に彼が好きだから、大丈夫だと思っていた。
きっとこれじゃダメなんだ。
克服、しなければ。
せめて、彼だけでも。
「不破、くん…」
図書室で本を読む不破くんに声をかける。
相変わらずそっくり。でも、私には見分けがつく。いや、見分けというよりは感覚的な問題かもしれない。
違いは簡単。
不破くんは友人。鉢屋くんは好きな人。
それだけで、全然違う。
「どうしたの?静枝ちゃん」
彼は読んでいた本を閉じると、こちらを見上げてきた。
その優しさに付け込むみたいでごめんなさい。
「不破くん、私に、力を貸してください」
「え………?」
不思議そうに首を傾げる彼に私は続ける。
「私、男性恐怖症を克服したいの」
鉢屋くんに、思いを伝えるために。